研究課題/領域番号 |
25289262
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
杉本 公一 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (50094272)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低合金TRIP鋼 / 熱処理 / 残留オーステナイト / 疲労強度 / 切欠き感受性 / 表面改質 / 真空浸炭 / 微粒子ピーニング |
研究実績の概要 |
1.切欠き疲労強度を向上させるための最適な「表面硬化処理技術の確立」 (1) 真空浸炭+微粒子ピーニングの実施:①0.2%C-1.5%Si-1.5%Mn-1.0%Cr-0.2%Mo鋼の平滑疲労試験片に炭素ポテンシャル0.8mass%で真空浸炭を施した後,急冷処理と180℃での焼き戻しを施してマルテンサイト型TRIP鋼(TM鋼)を製造した.②この後,引き続きアークハイト0.26~1.12 mm Nの範囲で微粒子ピーニングを施した.(2) 真空浸炭+微粒子ピーニング処理TM鋼の表面硬化層特性:①真空浸炭処理後の表面層の残留γ体積率は37vol%まで増加した.②微粒子ピーニング後のTM鋼の硬さと圧縮残留応力はSNCM鋼より20%程度増加した.(3) 真空浸炭+微粒子ピーニング処理TM鋼の切欠き疲労強度:①TM鋼の疲労限は微粒子ピーニング処理の場合に比較して大幅に増加した.②それらの疲労限をSNCM420鋼比較した時,SNCM420鋼と同等レベルであった.この結果は,TM鋼の場合,より低い残留γ体積率において,最適な残留γ条件が存在することを示唆した. 2.TM鋼の「切欠き疲労強度の改善機構の提案」 (1)ねじり疲労強度と回転曲げ疲労強度との比較:①微粒子ピーニングを施した平滑材と切欠き材のねじり疲労の場合も,TM鋼はSNCM420鋼よりも高い疲労限を示した.②ねじり疲労の疲労限と回転曲げ疲労の疲労限の関係は,平滑材では概ね「最大エネルギー説」,切欠き材では「主応力説」に従った.(2) 疲労き裂の発生と伝播挙動:①ねじり疲労の場合,回転曲げ疲労と同様に,TM鋼の疲労き裂進展の応力拡大係数範囲のしきい値はSNCM420鋼より大きく,かつき裂進展速度は小さかった.②表面硬化層特性を考慮した時,TM鋼の高い切欠き疲労限は主に(a)残留γのひずみ誘起マルテンサイト変態による硬さと圧縮残留応力の増加と(b)1~2結晶粒内部の多量の未変態残留γによる塑性緩和に起因すると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)組織観察,残留オーステナイト特性,残留応力,疲労試験が順調に進んだため. (2)真空浸炭と微粒子ピーニングによって切欠き疲労強度が大幅に増加し,そのメカニズムがほぼ提案できたため. (3)疲労強度をさらに高めるためのアイデアが得られ,次年度の研究計画の追加課題が見つかったため.
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今後の研究の推進方策 |
(1)残留γ特性やMA特性などの組織制御技術の確率:① TM鋼の真空浸炭処理後の残留γ体積率を変化させ,疲労限の最適残留γ体積率が存在することを明らかにする.② 同時に,さらに疲労限を高めることのできる微粒子ピーニング条件も検討する.また,この場合の切欠き疲労限の改善機構についても検討する.③ 真空浸炭なしで40vol%の残留γ体積率が得られる5%Mn-TRIP鋼を使用して,表面硬化層特性と疲労限に及ぼす微粒子ピーニングの影響を調査し,TM鋼の特性との比較を通して,最適な微細組織を見出す. (2)切欠き疲労強度の水素感受性の評価と改善機構の提案:①吸蔵水素量の測定:既存の装置を用いてTM鋼に水素を吸蔵させ,全吸蔵量,拡散性水素量を測定する.②切欠き疲労強度の水素感受性の評価:水素を吸蔵させながら回転曲げ疲労試験を実施する装置を試作し,切欠き疲労限とき裂の進展挙動を調査する.また,その水素感受性を明らかにする.③最適組成,最適熱処理条件,最適表面処理条件の見直し:水素感受性の低い最適化学組成,最適熱処理条件,最適表面処理条件を見直し,総合的に優れた条件を提案する.この結論に従って新たに鋼を試作し,提案の真偽を確認する. (3)まとめ:①3年間の成果を実績報告書にまとめて発表する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より,試験片加工費を節約できたことで,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度請求額と合わせ,主に試験片加工費や試験依頼などに充てる.
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