研究実績の概要 |
(1)残留γ特性やMA特性などの組織制御技術の確立:①TRIP型マルテンサイト(TM)鋼において,浸炭時のカーボンポテンシャルをCP=0.70, 0.75, 0.80%に変化させたとき,CPの増加にともない残留オーステナイト(γ)体積率は増加し,その炭素濃度は減少した.②CP=0.80%において,TM鋼の平滑材と切欠き材の疲労限は最も高くなった.Cpの増加にともなう切欠き材の疲労限の増加率は平滑材に比較して大きかった.③真空浸炭後の微粒子ピーニング処理材の粒子径を増加するに伴い,TM鋼の表面硬化層の硬さと圧縮残留応力は増加した.表面破壊型の切欠き材の疲労限はピーニング粒子の増加にともない増加したが,内部破壊を生ずる平滑材ではある条件のときに最大値を生じた.④市販の構造用鋼(SMCNCM420鋼)と比較したとき,真空浸炭処理を施したTM鋼の疲労限はSNCM420鋼と同程度であり,真空浸炭の効果は微粒子ピーニングほどには現れなかった. (2)切欠き疲労強度の水素感受性の評価と改善機構の提案:①水素吸蔵後のTM鋼の疲労強度の低下は既存の構造用鋼であるSNCM420鋼に比較して小さく,水素感受性が低いことがわかった.②これは,比較的安定な残留γが水素をトラップし,無害化させたためと考えられた.③ねじり疲労強度についての調査は時間の都合で間に合わなかった. (3)まとめ:①TM鋼は真空浸炭処理を除き,市販の構造用鋼に比較して非常に高い疲労強度を有することが明らかとなった.②今後は,自動車部品への適用研究を通して,TM鋼の有用性を学術的に明らかにしていきたい.このため,企業との共同研究を進める予定である.
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