研究課題/領域番号 |
25289265
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高村 正人 独立行政法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (00525595)
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研究分担者 |
浜 孝之 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (10386633)
大竹 淑恵 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, チームリーダー (50216777)
須長 秀行 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 研究員 (70442978)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 小型中性子源 / 中性子回折実験 / 集合組織 / 残留オーステナイト / 結晶塑性有限要素法 |
研究実績の概要 |
理研にて稼働中の小型中性子源(RANS)において、鉄鋼材料の結晶構造解析を実施した。サンプルとして、BCC系薄鋼板及びくし刃圧縮治具を用いて圧縮変形を加えたものから切り出したΦ10mmの円盤を重ねて10mm程度の高さとしたものを主に用い、~数nmの波長に相当するエネルギー領域のパルス中性子ビームを用いて、飛行時間法により回折パターンを取得した。これにより、{100}、{200}、{211}等の格子面に相当する回折ピークの検出に成功し、それらの強度を比較することにより、塑性変形に伴う集合組織の変化を観測することができた。さらに、複数の回折ベクトルに対する回折パターンを取得することにより、主要な格子面に対する極点図を得ることができた。一つの極点図を得るために必要なビーム照射時間は約60分であり、小型中性子源による実用的な回折実験が可能であることを示すことができた。作成された極点図の妥当性については、同じサンプルに対する既存手法(ここではX線回折)による測定結果との比較により確認することができた。 一方、フェライト相とオーステナイト相が既知の比率で存在するサンプルを用いた中性子回折実験を行い、得られた回折パターンに対してRietveld法によるプロファイル解析を適用してオーステナイト体積率を同定する試みを行った。その結果、実体積率19.1%に対して16.7%という結果となり、今後さらに誤差を低減できれば実験室レベルでの残留オーステナイト定量分析が可能であることが示された。 他方、マグネシウム合金板あるいは純チタン板を対象として各種負荷経路における負荷試験および結晶塑性解析を行った。そして、中性子回折による測定結果と比較検証が可能である集合組織に注目して、その発展の様子を実験的および解析的に検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたブラッグエッジイメージングではなく、飛行時間法による回折パターンを取得し、集合組織情報と結晶相の体積率情報を得ることを中心とした取り組みに微修正した。しかし、本取り組みにより得られた回折パターン情報は、結晶塑性有限要素法解析との連携を目指す上で、集合組織情報が極点図を介してシミュレーション結果と直接比較できるなど、ブラッグエッジイメージングよりも適していると考えることができ、予定していた以上の成果が得られた面がある。以上により、総合的には概ね順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
小型中性子源(RANS)において、検出器をRPMT(抗分割型光電子増倍管)からヘリウム3によるPSD(位置敏感型検出器)に変更して検出効率を高め、さらにオイラークレードルと呼ばれる2軸ゴニオメータを使用することにより、さらに短時間で緻密な回折情報が得られるシステムに改善する。改善された装置を用いて、チタンやマグネシウムなどの六方晶金属も視野に入れ、より幅広い金属とそれらを様々な負荷経路で塑性変形させた状態に対する中性子測定を行い、結晶塑性有限要素法解析結果との比較を進める。六方晶金属では変形に伴う双晶の活動が活発であり、平成26年度までの研究により変形に伴う集合組織の発展が非常に顕著であることが明らかにされている。しかしながらこれまでの関連研究では、測定上の制約から発展の様子を細かく追跡することが困難であった。本研究では小型中性子源における利便性を有効活用し、変形に伴う集合組織発展の様子を細かく追跡することで、応力-ひずみ曲線と集合組織の関連を詳細に検討する。そして最終的には、以上の検討によりメゾスケールの塑性変形現象の解明を進めるとともに、実験室レベルにおける中性子計測技術の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
「中性子計測結果分析処理用ソフトの改修」についての支出を計画していたが、研究における主な分析手法がブラッグ・エッジ・イメージングから中性子回折に軌道修正されたことにより、フリーソフトによる対応が可能となったため、不要となった。
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次年度使用額の使用計画 |
結晶塑性解析用ソフトウェアの改修(VCAD統合プリポストシステムとの接続及び表示項目の追加)、及び画像処理用ソフトウェア(中性子回折実験結果の可視化・分析用ソフト)導入費用として使用する計画である。
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