研究課題/領域番号 |
25289269
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 敏宏 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10179773)
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研究分担者 |
鈴木 賢紀 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20610728)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 界面張力 / 粘度 / 化学反応 / 物質移動 / 吸着 |
研究実績の概要 |
本研究では、溶鉄‐溶融スラグ間の界面張力に対して両相の間に化学反応・物質移動が生じた際の経時変化に着目した研究活動を行った。溶鉄‐溶融スラグ間の界面張力が化学反応が生じる際に、一旦その値が低下し、化学反応の終了と共に回復する結果は1950年代から報告されており、その後およそ15年周期でこの問題が注視されてきたが、いまだその機構は明らかにされていない。本研究ではH25年度から、(1)この現象を精度よく測定できる装置・手法の構築、(2)種々の実験条件を変化させた際の界面張力の経時変化の実験結果の蓄積、(3)さらにその機構解明の3点に重点を置き研究活動を進めてきた。H25年度は、特に1)界面張力測定装置の試作と作動性の確認、2)溶融スラグの粘度を変化させた場合の影響、3)硫黄が系内に存在する場合の影響、を実施した。上記項目の結果、1)溶鉄‐溶融スラグ間の界面張力に及ぼす溶融スラグ粘度の影響として、溶融スラグの粘度を低下させると界面張力の低下量が増すことがわかった。その理由として、溶融スラグからのSiO2の界面への移動が速くなるために溶鉄側界面に吸着した酸素の吸着量が増大するが、その脱着が遅いために、溶融スラグ中の物質移動に加え、溶鉄側界面に吸着した酸素の脱着過程が律速段階になりうる可能性を見出した。一方、2)硫黄が溶鉄から溶融スラグ側に移動する場合には界面張力の低下は、顕著には認められなかった。 以上の成果から、溶鉄‐溶融スラグ間の界面張力の経時変化は、①酸素の溶鉄・溶融スラグ中の化学ポテンシャルの勾配、②溶融スラグの粘度(溶融スラグ中の酸素の移動)、③溶鋼側界面の酸素の吸着量と脱着速度、の3要素に支配されている可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
溶鉄‐溶融スラグ間の界面張力に対して両相の間に化学反応・物質移動が生じた際の経時変化に着目した研究活動を行った。その結果、溶融スラグの粘度を低下させると溶融スラグ中のSiO2の移動が速くなり、溶鉄側界面の吸着酸素量が増大するが、その脱着が遅いために界面張力の低下量が増えることが明らかとなった。特に、溶融スラグの粘度を変化させることによって、これまで粘度が高く、拡散が遅い溶融スラグ中の物質移動が反応の律速段階であると考えていたが、H25年度の実験を通して、溶鉄側界面に吸着した酸素の脱着過程が律速段階になりうる可能性を見出した成果は極めて重要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度において、溶鉄‐溶融スラグ間界面張力の動的変化機構に及ぼす溶融スラグ粘度の影響を明らかにすることができ、我々がこれまでに得た種々の実験条件に対する界面張力の経時変化の実験結果を包括的に説明できる機構モデルの可能性を見出した。ただし、これらは定性的な機構説明に留まっており、定量性も含めた界面張力の動的変化機構の解明のためには、1)さらに詳細な条件下での界面張力の動的変化の実験結果の供給と、2)一連の実験結果を踏まえた上での、溶鉄‐溶融スラグ間界面張力の動的変化の実験結果を定量的に説明できる物質移動・化学反応・界面の吸着・脱着過程を考慮したシミュレーションモデル構築が大きな課題となる。特に、2)のモデル構築が達成できれば、多成分系溶鉄‐溶融スラグの界面張力の動的変化を物質系の化学組成、温度等の条件を変化させた場合に予測・推算することが可能となり、本系の界面状態の把握が鉄鋼プロセスに及ぼす種々の課題解決に大いに寄与することが期待できる。H26年度は、例えば溶鉄‐溶融スラグ間界面張力の動的変化に及ぼす溶融スラグ粘度の影響など、H25年度に行ったよりもさらに詳細な条件下での界面張力の動的変化の実験結果の供給を行うとともに、上記界面張力の動的変化機構をさらに深く検討する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はない。
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次年度使用額の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、当初予定通りの計画を進めていく。
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