本研究では、溶融スラグ―溶鋼間の界面張力を高く保って界面の乱れによる溶鋼中へのスラグ液滴の巻き込みを防止するためにスラグ組成を設計しても、溶融スラグ‐溶鋼間で化学反応が生じる際には、界面張力が低下して、巻き込みが生じることが多々あり、その機構解明を目指したものである。化学反応を伴う際の界面張力の動的挙動の機構の解明を目指した研究は、古くは1960年代から15年周期で研究がなされてきたが、その機構の詳細はいまだ明らかでない。本研究では水平な溶鋼表面に上部からスラグ液滴を落下させ、気相‐溶融スラグ相‐溶鋼の3相界面における接触角を測定することにより界面張力を求め、その時間変化を計測した。各種スラグならびに鋼組成を変化させて数多くの実験を行った結果、溶融スラグ側から溶鋼に向かってSiO2の分解に伴う酸素が界面を横切る際に溶鋼側界面に酸素が過剰に吸着し、一時的に非平衡状態で界面張力が低下するという機構をもとに、様々な現象を説明できることを見出した。さらに溶融スラグの粘度を変化させ、界面への酸素の移動と、反応後の生成物の溶融スラグ中への移動を変化させたところ、スラグの粘度の低下に伴い界面張力の低下の程度が大きくなることを見出し、界面張力の動的変化に及ぼす溶融スラグ粘度の影響を明らかにできた。また、溶融スラグ中SiO2の活量を変化させたところ、界面張力の時間変化について動的変化挙動への影響の相関関係は見出すことが難しく、顕著ではないが、界面張力の絶対値に影響を及ぼすことを新たに見出した。さらに、溶融スラグ中SiO2成分と反応する溶鋼中Alの濃度(活量)を変化させた際の実験結果もすでに得られている。また、溶融スラグ成分によっては溶鋼との濡れ性が随分変化し、接触角がほぼゼロになる程良く濡れる系から、溶鋼表面全体に濡れ広がる挙動を示さない組合せ系が存在することも一連の実験から明らかにできた。
|