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2013 年度 実績報告書

グラフト鎖内での無機化合物の沈殿生成を利用する極低濃度のイオンの除去用材料の開発

研究課題

研究課題/領域番号 25289274
研究種目

基盤研究(B)

研究機関千葉大学

研究代表者

斎藤 恭一  千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90158915)

研究分担者 浅井 志保  独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力基礎工学研究部門, 研究員 (10370339)
研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード放射性物質の除去 / 繊維状吸着材 / セシウム / ストロンチウム / フェロシアン化コバルト / チタン酸ナトリウム / 放射線グラフト重合法
研究概要

2011年3月11日の東日本大震災に伴って,東電福島第一原発でメルトダウンが起きた。その後,Cs-137やSr-90といった放射性物質が放出され,河川,湖沼水,海水といった地表水に溶け込んだ。除染作業によって発生する放射性物質を含んだ汚染水はタンクに貯留されている。水中に溶存するセシウムを除去するための吸着材には,極低濃度のセシウムイオンを吸着できること,および吸着材の取り扱いが容易であることが求められる。
研究代表者らは,Csの高速除去をめざし,放射線グラフト重合法を適用して,不溶性フェロシアン化コバルト微粒子(Co-FC)担持繊維を開発し,市販の吸着材と比較して, Csを高速吸着できることを実証してきた。本研究では,Co-FCの繊維への担持の仕組みを解明した。不溶性フェロシアン化金属を担体へ担持する研究は多くあるが,その担持の仕組みを解明した研究はない。
Co-FC担持繊維を次の工程を経て作製した。まず,ナイロン繊維に放射線グラフト重合法を適用してアニオン交換繊維を作製した。つぎに,アニオン交換繊維をK4[Fe(CN)6¬]溶液,CoCl2溶液の順に浸漬し,Co-FCを担持させた。アニオン交換繊維,[Fe(CN)6¬]4-吸着後の繊維,およびCo-FC担持繊維の繊維断面方向でのCl,FeおよびCo元素分布を測定した。
まず,[Fe(CN)6¬]4-はアニオン交換繊維内部まで吸着した。つぎに,繊維周縁部の[Fe(CN)6¬]4-からCl-とイオン交換し,その[Fe(CN)6¬]4-はCo2+と沈殿反応を起こして繊維周縁部でCo-FCを形成した。さらに,繊維内部に吸着している[Fe(CN)6¬]4-もCl-とイオン交換し,繊維内部ではなく,繊維周縁部でCo2+と沈殿を形成した。初めに吸着していたすべての[Fe(CN)6¬]4-が繊維周縁部に担持されることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

市販の6-ナイロン繊維に,放射線グラフト重合法を適用して,アニオン交換基を有するグラフト(接ぎ木)高分子鎖を取り付け,その後,無機化合物の沈殿(ここでは,セシウムを特異的に捕捉するフェロシアン化コバルトの微結晶)を高分子鎖内で生成させることによって,これまでに報告例のない繊維状吸着材を開発してきた。しかしながら,グラフト高分子鎖内での沈殿生成反応について知見がまったくなかった。これに対して,本研究では,登場するさまざまな元素(鉄,コバルト,塩素)の物質収支をとり,さらに繊維断面のこれらの元素分布の工程での変化を追跡することによって,定量的にこの現象を解析することに成功したと言える。この成果は,不溶性フェロシアン化コバルト担持繊維のセシウム除去性能の向上や再現性の高い吸着作製法の確立に役立つ。

今後の研究の推進方策

汚染水問題のもう一つの課題は放射性ストロンチウムの除去である。海水から放射性 Sr を除去することは,放射性 Cs を除去するのに比べて,ずっと難しい。海水中にはもともと約 8 mg/L の ″非″ 放射性ストロンチウムが溶けているからである。なお,非放射性セシウムは、もともと約 0.3 μg/L 溶けている。吸着材は放射性 Sr と非放射性 Sr を識別できないので,両方とも捕捉する吸着容量の高い吸着材が必要である。本研究では,チタン酸ナトリウムを担持した吸着繊維を作製し,さらにその担持量を増やして Sr の吸着容量を高める工夫を提案する。そのために,チタン酸ナトリウムの前駆体であるチタン酸(Ti(OH)4)の析出量を増やす。すなわち,Ti(OH)22+ と水酸化物イオン(OH-)との沈殿反応によってチタン酸を析出させる工程を繰り返す。
得られた吸着繊維を海水に投入・振とうして,吸着平衡に達するまで Sr を吸着させる。このとき,液繊維比 (液の繊維に対する重量割合) を 100~500 の範囲で変える。液繊維比が大きい,すなわち海水へ投入する繊維重量が少ない条件で,海水中での Sr 除去率が高い吸着繊維を探索する。市販の粒状吸着材 『SrTreat』の性能を超える Sr 除去率をめざす。
海水中の Sr-90 の規制値に相当する告示濃度は 30 Bq/L(6.0 × 10-10 mg/L)である。この値を下回るのに『浮き玉・シンカー付き吸着繊維モールを使う除去システム』に必要となる吸着繊維重量を算出し,本研究で作製する吸着繊維を使った除去システムの実用性を検討する。

  • 研究成果

    (17件)

すべて 2014 2013 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Cesium removal in freshwater using potassium cobalt hexacyanoferrate- impregnated fibers2014

    • 著者名/発表者名
      Y. Okamura, K. Fujiwara, R. Ishihara, T. Sugo, T. Kojima, D. Umeno, and K. Saito
    • 雑誌名

      Radiation Physics and Chemistry

      巻: 94 ページ: 119-122

    • 査読あり
  • [雑誌論文] (3) 不溶性フェロシアン化コバルトおよびニッケル担持繊維の海水中でのセシウム イオンに対する吸着等温線2014

    • 著者名/発表者名
      天海 亘,杉山まい,藤原邦夫,須郷高信,梅野太輔,斎藤恭一
    • 雑誌名

      日本海水学会誌

      巻: 68 ページ: 18-24

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 海水からの放射線ストロンチウム除去のためのイオン交換繊維へのチタン酸ナトリウム担持経路の選定2014

    • 著者名/発表者名
      海野理,河野通尭,藤原邦夫,須郷高信,河合(野間)繁子,梅野太輔,斎藤恭一
    • 雑誌名

      日本海水学会誌

      巻: 68 ページ: 89-93

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 海水中のセシウム除去のための吸着繊維の作製2013

    • 著者名/発表者名
      岡村雄介,藤原邦夫,飯島直樹,正田哲也,鈴木晃一,須郷高信,清水 威, 板垣龍人,高橋 淳,小野孝之,菊池 隆,染谷孝明,石原 量,小島 隆,梅野太輔,斎藤恭一
    • 雑誌名

      日本イオン交換学会誌

      巻: 66 ページ: 8-13

    • 査読あり
  • [学会発表] ストロンチウム吸着繊維作製のためのグラフト鎖への含水酸化チタン担持のメカニズム

    • 著者名/発表者名
      中谷 友紀,海野 理,杉山 まい,藤原 邦夫,須郷 高信,小島 隆,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      日本海水学会第64年会
    • 発表場所
      山梨県立図書館
  • [学会発表] 吸着繊維を用いたタンク内の高塩濃度汚染水への放射性物質除去シミュレーション

    • 著者名/発表者名
      染谷 孝明,河野 通尭,藤原 邦夫,須郷 高信,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      日本海水学会第64年会
    • 発表場所
      山梨県立図書館
  • [学会発表] ストロンチウム吸着容量の増加をめざした含水酸化チタン繰返し析出型繊維の作製

    • 著者名/発表者名
      河野 通尭,海野 理,藤原 邦夫,須郷 高信,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      日本海水学会第64年会
    • 発表場所
      山梨県立図書館
  • [学会発表] フェロシアン化金属を担持したセシウム除去用吸着繊維の開発

    • 著者名/発表者名
      天海 亘,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一,藤原 邦夫,須郷 高信
    • 学会等名
      第2回環境放射能除染研究発表会
    • 発表場所
      タワーホール船堀
  • [学会発表] ストロンチウム除去のためのカチオン交換グラフト繊維へのチタン化合物繰返し析出担持

    • 著者名/発表者名
      河野 通尭,海野 理,藤原 邦夫,須郷 高信,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      化学工学会第45回秋季大会
    • 発表場所
      岡山大学
  • [学会発表] 汚染水タンクから放射性Srを除去するための無機化合物微粒子担持繊維の作製

    • 著者名/発表者名
      海野 理,中谷 友紀,河野 通尭,藤原 邦夫,須郷 高信, 小島 隆,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      第29回日本イオン交換研究発表会
    • 発表場所
      東北大学
  • [学会発表] 不溶性フェロシアン化コバルトおよびニッケルを担持したセシウム吸着繊維の作製とその セシウム吸着特性

    • 著者名/発表者名
      天海 亘,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一,藤原 邦夫,須郷 高信
    • 学会等名
      第29回日本イオン交換研究発表会
    • 発表場所
      東北大学
  • [学会発表] チタン化合物を担持した吸着繊維によるストロンチウムイオンの除去

    • 著者名/発表者名
      河野 通尭,海野 理,後藤 駿一,藤原 邦夫,須郷 高信, 小島 隆,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      第27回日本吸着学会研究発表会
    • 発表場所
      千葉大学
  • [学会発表] 不溶性フェロシアン化金属を担持した吸着繊維によるセシウムイオンの除去

    • 著者名/発表者名
      天海 亘,○後藤 聖太,高橋 佳苗,藤原 邦夫,須郷 高信, 小島 隆,河合 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      第27回日本吸着学会研究発表会
    • 発表場所
      千葉大学
  • [学会発表] 海水中のセシウム除去性能向上のためのTEDA型アニオン交換繊維へのフェロシアン化コバルトの担持とその構造解明

    • 著者名/発表者名
      後藤 聖太,天海 亘,海野 理,河合 (野間) 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一, 藤原 邦夫,須郷 高信
    • 学会等名
      日本海水学会若手会第5回学生研究発表会
    • 発表場所
      日本大学軽井沢研修所
  • [学会発表] 東電福島第一原発港湾内の放射性Sr除去のためのチタン酸ナトリウム担持繊維の作製経路の選択

    • 著者名/発表者名
      海野 理,河野 通尭,後藤 聖太,藤原 邦夫,須郷 高信, 河合 (野間) 繁子,梅野 太輔,斎藤 恭一
    • 学会等名
      化学工学会第79年会
    • 発表場所
      岐阜大学
  • [学会発表] 原発内の汚染水処理に役立つCs/Sr吸着繊維

    • 著者名/発表者名
      斎藤恭一
    • 学会等名
      化学工学会第79年会
    • 発表場所
      岐阜大学
    • 招待講演
  • [図書] グラフト重合法による高分子吸着材の革命2014

    • 著者名/発表者名
      斎藤恭一,藤原邦夫,須郷高信
    • 総ページ数
      200(予定)
    • 出版者
      丸善

URL: 

公開日: 2015-05-28  

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