研究課題/領域番号 |
25289276
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
新戸 浩幸 福岡大学, 工学部, 教授 (80324656)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノリスク / ナノ粒子 / 生体膜 / ソフト界面 / コロイド |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノ粒子の毒性・膜損傷性について、実際の生体膜とモデル生体膜との類似点・相違点を明らかにし、ナノ粒子・生体膜間相互作用のメカニズムの全体像を物理化学的に理解することを目指す。さらに、分子モデリングと流体ミクロモデリングとを連携させたマルチスケールシミュレーションを実行し、実験結果の検証および当該現象の予測手法を構築する。これにより、ナノリスクが問題視されている産業・社会へ貢献する。具体的な研究目的は、以下である。 A.ナノ粒子の赤血球膜への付着と膜損傷の評価・観測 B.ナノ粒子のモデル生体膜への付着と膜損傷の評価・観測 C.ナノ粒子・生体膜間相互作用のマルチスケールシミュレーション 平成26年度は、非晶質シリカ粒子による赤血球の膜損傷に及ぼす粒子径(5~120nm)および分散媒体である等張液(150mM塩化ナトリウム水溶液、300mMグルコース水溶液、両者の任意混合水溶液)の影響を調べた。その結果、(A-1)大きさ11~120nmのシリカ粒子による膜破壊は、無血清培地中では、粒子の大きさではなく、培地体積当たりの粒子の表面積に依存すること、(A-2)大きさ8nmのシリカ粒子は最大の膜破壊性を示し、生体膜の厚さと同じ5nmの大きさのシリカ粒子では膜破壊性が著しく低下すること、(A-3)塩化ナトリウム濃度が低下するにつれて、濃度150mM→25mMでは膜破壊性が低下するが、濃度25mM→0mMでは膜破壊性が上昇すること、などを明らかにした。 LB膜作製装置を用いて、水面上に形成される不溶性単分子膜と水相に懸濁されたシリカ粒子(大きさ8nm)との相互作用を、表面圧-面積の曲線から調べた。その結果、シリカ粒子と不溶性単分子膜の相互作用は、親水基の種類(-COOH, -OH, -NH2)と炭素鎖の長さ(C13, C14, C18)に影響されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
網羅的な溶血試験を行うことによって、シリカ粒子による赤血球膜の膜損傷性に及ぼす粒子径と等張液の電解質濃度の影響の全体像を明らかにすることができた。 モデル生体膜として、これまで検討していた「リン脂質被覆W/Oエマルション」と「巨大ベシクル」に代わって、平成27年度からLB膜作製装置によって「水面上に形成される不溶性単分子膜」を用いることにした。ここから得られる表面圧-面積の曲線によって、モデル生体膜とナノ粒子の相互作用を定量的に検討することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
種々の膜分子、ナノ粒子、分散媒体を用いて、「水面上に形成される不溶性単分子膜」とナノ粒子の相互作用を定量的に検討する。赤血球膜およびモデル生体膜へのナノ粒子の付着状態を、蛍光顕微鏡や電子顕微鏡によって観察する。 分子モデリング手法と流体ミクロモデリング手法を連携させたマルチスケールシミュレーションを実行し、実験結果の検証および当該現象の予測手法を構築する。 これまでに得られた詳細な実験・計算データを総括し、ナノ粒子との相互作用に関する実際の生体膜とモデル生体膜との類似点・相違点を明らかにする。これにより、ナノ粒子・生体膜間相互作用のメカニズムの全体像を明らかにし、その物理化学的な理解を深化させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「LB膜作製装置」の納品日が平成26年10月30日と予想外に遅く、更に有益な情報が得るために必要な周辺機器を選定するまでにさらに約3ヶ月を要したため、本年度中に予算を執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
「LB膜作製装置」に周辺機器を組み込むことにより、ナノ粒子懸濁液と接する不溶性単分子膜の相挙動を直接観察することなどが可能となる。このような複合装置によって得られる観測データは、ナノ粒子・生体膜間相互作用のメカニズム解明に向けて、極めて貴重な情報を与えるものと期待している。
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