研究実績の概要 |
本研究では、ナノ粒子の毒性・膜損傷性について、実際の生体膜とモデル生体膜との類似点・相違点を明らかにし、ナノ粒子・生体膜間相互作用のメカニズムの全体像を物理化学的に理解することを目指す。さらに、分子モデリングと流体ミクロモデリングとを連携させたマルチスケールシミュレーションを実行し、実験結果の検証および当該現象の予測手法を構築する。これにより、ナノリスクが問題視されている産業・社会へ貢献する。具体的な研究目的は、以下である。 A.ナノ粒子の赤血球膜への付着と膜損傷の評価・観測 B.ナノ粒子のモデル生体膜への付着と膜損傷の評価・観測 C.ナノ粒子・生体膜間相互作用のマルチスケールシミュレーション 平成27年度は、LB膜測定装置を用いて、水面上に形成されるリン脂質(DPPC)の単分子膜と水相(Tris-HCl緩衝液150mM, pH=7.4)に懸濁されたシリカ粒子(大きさ約8 nm)または12タングストケイ酸(大きさ約1 nm)との相互作用を、表面圧-面積曲線(Π-A曲線)から調べた。シリカ粒子の場合、粒子懸濁液の濃度が濃くなるほど、より高い圧力を示した。12タングストケイ酸の場合、懸濁液の濃度が低いときは粒子なしの場合と同じようなΠ-A曲線を示し、粒子懸濁液の濃度が10 mg/mlのとき、やや強い圧力を示した。すなわち、シリカ粒子は、12タングストケイ酸よりも強く、モデル生体膜と相互作用していると考えられる。このような挙動は、赤血球を用いた溶血試験でも見られた。
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