研究課題/領域番号 |
25289277
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
多湖 輝興 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20304743)
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研究分担者 |
増田 隆夫 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20165715)
中坂 佑太 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30629548)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 化学工学 / 触媒・化学プロセス / 反応工学 / 石油化学 / 資源・エネルギー |
研究実績の概要 |
本年度は,TiO2-ZrO2系触媒による加熱水蒸気雰囲気下での重質油の軽質化において,①重質油分解活性と②触媒の構造安定性の向上を目的とし,ニオビア(Nb2O5,酸特性向上)とアルミナ(Al2O3,構造安定性向上)の添加量の最適化を検討した.さらに,反応雰囲気が触媒の安定性に及ぼす影響を検討すると共に,同触媒による常圧残油の分解軽質化の結果をビチュメンの軽質化へ展開した. (1)固体酸性質,表面特性の評価: TiO2-ZrO2系触媒の固体酸性質の評価を実施した.アンモニア吸着法により,同触媒はゼオライトに匹敵する強酸性を有することを明らかにした.また,触媒に吸着させたピリジンのIRスペクトルから,触媒上にはルイス酸点のみ存在することを明らかにした.また,TiO2-ZrO2系触媒は,組成比に依存せず親水性を示すが,ほぼ無孔性であり,表面積に酸量と水の吸着量が大きく依存した.従って,触媒の高活性化には,高表面積化と構造安定性の向上が重要であることが示された. (2)常圧残油の分解による触媒活性評価:常圧残油の軽質化において,常圧残油にはGasoline+Kerosene成分は10%程度しか含まれないが,TiO2-ZrO2系触媒による反応後では,Gasoline+Kerosene成分が40%以上へと増加した.一方,TiO2-ZrO2系触媒は,反応後に触媒表面積が約20%低下する.そこで,触媒にアルミナを添加し,触媒の構造安定性の向上を図った.その結果,アルミナ添加量は1wt%で十分な効果が確認された.一方,触媒へのコーク析出抑制を目的に,高圧雰囲気下での反応を実施したが,炭素析出量の低減が困難であったため,空気焼成による析出コーク成分の除去を検討した.再生処理後の触媒も,反応初期とほぼ同程度の活性を示すことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)無孔性のTiO2-ZrO2系触媒では,触媒の高表面積化と構造安定性向上が高活性維持に重要であることが示唆された.これに対し,10wt%ニオビアと1wt%アルミナを担持することで,常圧残油の軽質化活性を維持しつつ構造安定性の向上が達成された.また,酸性質としてはルイス酸が主成分であり,その強度はゼオライトに匹敵する強酸性であることを明らかにした. 2)TiO2-ZrO2系触媒は高圧雰囲気での触媒表面積の低下が著しい.そのため,過熱・加圧水蒸気雰囲気での触媒上でのコーク生成を抑制することが困難である.そこで,反応後の触媒の再生処理を検討したところ,空気焼成でコークを除去することにより,触媒の繰り返し使用可能であることが示された. 3)最適化したTiO2-ZrO2系触媒によるビチュメンの軽質化実験を検討したところ,常圧残油の軽質化と同様にビチュメン中のVRやVGO成分の軽質化が達成された.
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今後の研究の推進方策 |
重質油の分解軽質化:TiO2-Fe2O3系触媒では常圧水蒸気~加圧・過熱水蒸気雰囲気下で,TiO2-ZrO2系触媒では常圧雰囲気下でのビチュメンの軽質化反応を実施する.触媒上へのCoke析出抑制のために,プレ反応器としてのアルミナ充填層を触媒充填層の前段に新たに設置する.反応温度,反応圧力,触媒量の各パラメーターがアルミナ充填層と触媒充填層に析出するCoke量へ及ぼす影響を明らかにすると共に,チュメンに含まれるVRやVGO成分の軽質化を検討する. 数値モデル化:ビチュメンをVR,VGO,Gasoil,Gasoline & keroseneの各成分に分画し,ランピングモデルによるビチュメン接触分解反応の詳細速度解析を実施する.各成分間の反応速度から軽質化反応の律速段階を明らかにし,Coke生成の抑制に最も効果的な方法を提案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
ビチュメン等の重質油の分解反応としては,酸化触媒による酸化分解と固体酸触媒によるクラッキングが考えられる.平成25年度は酸化触媒としてTiO2-Fe2O3系触媒を,固体酸触媒としてTiO2-ZrO2系触媒を開発した.本年度は,これら触媒による重質油の軽質化反応実験,および触媒の評価法の確立と,触媒組成の最適化を中心に検討を進めた.本年度の前半には,触媒調製法,反応実験方法と触媒評価法を確立することができた.この様に実験ノウハウが確立できたため,触媒の開発と触媒組成の最適化が効率よく進み,研究費を抑えることができた.また,TiO2-ZrO2系触媒は,ビチュメンに対しても十分な分解軽質化活性を有しており,高圧ではなく常圧条件での実験が可能であった.常圧条件での分解軽質化が可能であるため,実験費を抑えることができた.
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次年度使用額の使用計画 |
超重質油であるビチュメンには,約15%程度のアスファルテン成分が含まれる.アスファルテン成分は,反応中に触媒上に析出する,もしくは反応器下流部で析出しプロセスに悪影響を及ぼす可能性がある.そこで,触媒充填層の前段に,アスファルテンの除去を目的にアルミナを充填したプレ反応器を設置することを着想した.前年度に節約できた実験費を,アルミナ充填用のプレ反応器の作製と反応装置の改良に使用する. さらに,これまでに得られた成果を,国内学会と併せて,反応工学(ドイツで開催)と触媒(ヨーロッパ触媒会議 ロシアで開催)に関する国際会議にて発表する計画である.
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