研究課題/領域番号 |
25289284
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊地 隆司 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40325486)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 混合伝導体 / 燃料電池 / 電子伝導性 / イオン電導性 / 三相界面 / ペロブスカイト酸化物 |
研究実績の概要 |
本研究では、混合伝導性酸化物の電子およびイオン伝導特性の評価、金属-混合伝導性酸化物界面における触媒的な水素解離反応活性の評価、電気化学的な水素酸化反応特性の評価から、金属-混合伝導性酸化物界面での反応場形成と反応特性の向上について解明を進めることを目的としている。本年度はさらに電子伝導性の高いチタン酸塩系ペロブスカイト酸化物LaxSr1-xTiO3 (LST)および LaxSr1-xFeyTi1-yO3 (LSFT) に着目し、検討を進めた。まず、通常のボールミルを用いた方法でNiとの焼結体とし、メタンの水蒸気改質活性を評価した。Aサイト置換体であるLSTを用いたNi-LSTが最も活性が高く、燃料極として一般的に使用されるNi-YSZに近い活性を示した。Bサイト置換体である鉄置換チタン酸カルシウム(CFT)を用いたNi-CFTの活性は非常に低く、A、Bサイト両方を置換したLSFTを用いたNi-LSFTの活性はNi-CFTよりも高く、Ni-LSTに近い活性を示した。これらの結果から、Ni-LSTを有力なアノード材料の候補とし、燃料電池発電評価を行った。Ni量および調製法を変えてアノードを作製し発電特性を評価した。一般的なボールミルを用いる方法と、ペロブスカイト酸化物にNiを含浸担持し調製する方法を検討した。まず従来の方法で調製したNi-YSZは、Niの割合を60wt%から40wt%に低下させると過電圧が大きく増加し性能が低下した。一方で、含浸法で作製した%Ni-LSTは、過電圧は大きいもののNi量低下による過電圧の増加は小さかった。これは、LSTが高い電子伝導性を持つため、Ni量を低減しても電子伝導経路が保たれ、オーム抵抗の増加が抑制できたためであると考えられる。このように電子伝導性の高いLSTを用いることで、新たな電極構造のアノードを調製できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、混合伝導体としてサマリウム添加セリアおよび鉄置換チタン酸カルシウムを用いて燃料極の検討を行い、十分な酸素イオン伝導性が確保される場合に、電子伝導性の増加は反応場の拡大に有効であることを報告した。この結果をふまえて、本年度は、チタン酸塩系ペロブスカイト酸化物のAサイトをSrやLaとした(La, Sr)TiO3混合伝導体の燃料極への適用を予定した。金属と混合伝導体の混合比や混合伝導体の組成による触媒活性の変化や、燃料電池の燃料極としての性能評価を、研究計画通りに達成している。またパターン電極による三相界面近傍での反応過電圧の評価に取り組んでおり、次年度に報告できる見込みである。 当初の計画より進展した点は、今年度用いた電子伝導性の高いLSTを用いることで、含浸法という新しい燃料極調製法で電極を作製できることを示したことである。この電極は通常のボールミルで調製した試料よりも低Ni量でも発電が可能で、さらに炭化水素燃料を用いた場合に安定に発電できることを示した点も進展した点である。次年度国際学会でこの成果の発表を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はチタン酸塩系の混合伝導体としてパイロクロア型酸化物の適用を検討している。ペロブスカイト型と同様に、元素置換によって電子伝導性とイオン伝導性を変化させることが可能であり、燃料極が用いられる高温還元雰囲気ではペロブスカイト型酸化物より安定であることが期待される。安定な混合伝導体を使用することにより、高温での測定の際に、構造変化などの要因を排除して、電子伝導性やイオン伝導性の伝導特性の影響を評価することができる。まず多孔質電極を作製し、金属と混合伝導体の混合比、混合伝導体の粒径や結晶性が反応過電圧に与える影響について評価し、電極構造の最適化を行う。特に、混合伝導体の結晶性や粒径が及ぼす影響について重点的に評価する。この化合物についても、金属-混合伝導性酸化物界面長を定義した電極を作製し、電気化学的な水素酸化反応をおこなうことにより、金属-混合伝導体界面における反応過電圧と、混合伝導体の伝導特性の関連を評価する。反応過電圧は交流インピーダンス法により分離・評価し、反応過電圧が最少となる組成を決定する。これらの過電圧評価結果と混合伝導体の伝導特性の相関を明らかにすることで、反応場形成と反応特性に与える影響について考察を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定よりも分析を要する試験が増えて、作製した試料が少なかったため、消耗品費の余剰が少々生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年間消耗品予定予算に比較して残額は少額であり、次年度計画の実験範囲内で使用する。
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