研究課題/領域番号 |
25289297
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
神谷 典穂 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50302766)
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研究分担者 |
若林 里衣 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 酵素 / 翻訳後修飾 / ナノバイオ / バイオハイブリッド / アプタマー / 核酸 / 自己集合 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノ・バイオテクノロジー分野において重要な機能素子であるタンパク質を、異種材料と分子レベルで効果的に集積化する技術の開発と、それにより生じる新たな機能性の発現について検討している。本年度は、前年度までに確立した基盤技術をさらに発展させるべく、合成高分子上への機能性タンパク質の集積化、核酸の相補性を利用する機能性タンパク質の集積化、機能性タンパク質がネットワーク中に組み込まれたハイドロゲルを利用した細胞シートの設計の3つの課題に対して基礎検討を実行し、それぞれに対して興味深い知見が得られた。まず、抗体結合タンパク質を合成高分子上に部位特異的且つ共有結合的に一次元集積した複合体は、固相化された抗原を特異的に検出する材料として機能した。次に、核酸としてアプタマーを選択した酵素との複合体では、アプタマー末端に酵素を1次元集積することにより分子あたりの酵素活性を向上可能なことが示された。最後に、細胞接着を促す特異配列を有するゼラチンをハイドロゲルネットワーク中に配置し、ゲル上で生細胞を培養した後、ゲルを崩壊させることにより、生細胞からなる2次元シートを得ることに成功した。何れも機能性タンパク質の次元を意識して集積化するという発想から、新たなバイオ材料の創製に繋がった。さらに、機能性タンパク質のレパートリーを増やし、研究のオリジナリティを高めるため、微生物ならびにカイコによるヘムタンパク質の発現も実施し、ヘム前駆体の添加がタンパク質生産の向上に寄与することを見出した。以上の成果を、学術論文5編に纏めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に掲げた目標は十分に達成され、当初計画の沿って着実に研究は進展している。 本年度は、モデルタンパク質として抗体結合タンパク質を選択し、これに酵素基質ペプチドを導入した融合タンパク質を設計、大腸菌を宿主として組換え発現した。得られた融合タンパク質を合成高分子上に、効率良く部位特異的且つ共有結合的に集積するための基礎条件を網羅的に評価し、タンパク質と合成高分子のコンジュゲーション過程の高効率化の鍵となる基礎因子を明らかにした。さらに、抗原検出系の感度向上を志向し、カイコ幼虫を宿主とした組換えペルオキシダーゼの発現を検討し、活性型酵素を得ることに成功した。そこで、上述の融合タンパク質と同様の設計を施し、抗原検出が可能なバイオ素子として使えることを確認した。核酸アプタマーとの複合体化についても、効率的な複合化の基礎条件の設定に時間を費やし、安定した結果を得る条件を見出した。一方、前年度に新たに見出した細胞包括が可能なハイドロゲルについては、機能性タンパク質の導入により、動物細胞が2次元上に展開されたシート状構造体を得ることに成功した。 以上の成果を、5編の学術論文として纏め、カイコ発現系について特許出願を実施し、学会発表も積極的に実施できたことから、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた成果をさらに発展させ、機能性タンパク質の1次元集積化を基盤とした高次機能性の発現を目指す。まず、足場となる高分子材料の組成と、新たな足場分子の探索を行う。前者については、重合部位や共重合体の調製により、足場分子そのものに機能を付与し、複合化されたタンパク質機能との相乗効果の発現を狙う。次に、同一の足場材料に、異なる種類のタンパク質を共集積化するための基盤技術の確立を試みる。これを実現するためには、タンパク質架橋酵素のレパートリーを増やす必要があることから、本年度その有効性が確認された難発現性タンパク質の生産を可能にするカイコ幼虫による発現系を積極的に利用する。また、機能性タンパク質の集積化の駆動力に、非共有結合性を導入することも試みる。具体的には、天然セルロソーム構造におけるコヘシンードックリンの系のような、特異性と直交性を兼ね備えた相互作用ペアを1次元集合体の設計に導入し、共有結合で集積化された複合体との機能発現の差異について基礎検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究は十分に実行できたため、残額を次年度の研究で有効に使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究計画に沿って、有効に使用する。
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