研究課題/領域番号 |
25289301
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏二郎 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (10226508)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ペネトレータ / 氷 / 高速衝突 / バリスティックレンジ / ダイナミクス / 圧縮性流体力学 / 数値流体力学 |
研究実績の概要 |
バリスティックレンジを用い、全長約27mm、質量約2.5gの飛翔体模型を速度100~350m/sの範囲で氷ブロックのターゲットに衝突させる実験を実施した。衝突貫入時の高速ビデオ画像や衝突後の氷の観察から、ペネトレータが衝突する際の氷破砕片群の挙動や、貫入停止時の深さや姿勢と機体形状、衝突条件(速度、迎角)との関係に関するデータを集めることができた。衝突によって作られるクレータは石膏流し込み法によって可視化され、スポール、ピット、貫入穴の3段構造が明らかにされた。また、機体先頭中央から貫通穴を設けて衝突時の衝撃荷重を緩和させることが、貫入の成功率を高めるなど、氷ペネトレータの設計上、有用な知見を得ることができた。 破砕氷片群の挙動が流体的であることは、ペネトレータの運動解析に必要な荷重モデルとして空気力学的手法が有効であることを示唆している。ニュートン流理論と衝撃波理論を組み合わせ、氷ペネトレータの運動解析法を開発した。破砕氷中の有効音速をチューニングパラメータとして設定することで貫入実験結果の傾向を再現できることがわかった。本手法は計算負荷が小さいので、機体設計に有用である。 氷の破砕に関する直接数値シミュレーションについては、粒子法(SPH法)を重点的に開発し、定性的に妥当な結果を得ることに成功した。並行して、有限体積法による数値解析法も開発しており、「圧縮するが膨張しない流体」モデルとそのリーマン解法を新たに提案した。 大気中を高速飛翔する氷片の挙動については、極超音速風洞を用いた実験を行った。氷片内部に揮発性物質を含む場合、空力加熱による表面損耗で内部が暴露された時に発生する昇華ガスのジェットや、中央部がえぐれた結果残される凹面形状の流体的不安定性により、衝撃波形状の大規模非定常変動が起こることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バリスティックレンジを用いた衝突実験と、衝突貫入時の高速ビデオ画像や衝突後の氷の観察から、ペネトレータが衝突する際の氷破砕片群の挙動や、貫入停止時の深さや姿勢と機体形状、衝突条件(速度、迎角)との関係に関するデータを集めることができた。これらは、氷ペネトレータ機体設計用のデータベースとしてだけでなく、並行して研究を進めている機体運動の簡易解析法や、氷の直接シミュレーション法の開発やチューニングのための比較用として、今後の研究に必須のものである。氷ペネトレータのダイナミクスに関する同様な研究は過去になく、貴重な成果である。実際、これらをまとめた「氷天体を目標としたペネトレータの衝突貫入における機体形状の効果」という発表は第58回宇宙科学技術連合講演会において、発表した学生が若手奨励賞(優秀論文賞)を受賞している。数値解析においては、ニュートン流理論とパネル法による氷ペネトレータの簡易運動解析法と、破砕氷片の流動解析用の「圧縮するが膨張しない流体」モデルという、新しい提案を行うことができた。これらは、当初の計画以上の進展であったと言える。 高速で大気中を飛行する氷片まわりの流れについて、氷片内部に揮発性物質を含む場合、衝撃波形状の大規模非定常変動が起こることを極超音速風洞実験により見出したが、化学反応の影響については次年度の課題となった。 以上を総合すると本研究は、(2)「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに行った衝突実験から、ペネトレータが氷に衝突する際の氷の破砕の様子や貫入停止時の深さや姿勢に関するデータを集めることができた。それをベースに、氷ペネトレータの簡易運動解析手法を仕上げ、これを用いて、氷に適したペネトレータ形状のデザインを行う。頭部から尾部に貫通穴を開け、衝撃荷重を緩和させることが貫入の成功に有効であるという実験的知見に基づく新しいデザインを行い、バリスティックレンジの実験で効果を確認して、「氷ペネトレータ形状デザイン」を完了させる。 破砕氷片の挙動に関する数値シミュレーションについては、これまで、粒子法(SPH法)を重点的に開発してきたが、計算負荷が小さく、氷全体をひとつの場として理解することができる有限体積法による流体モデルが有望と考え、こちらに力点をシフトさせる。平成26年度の研究で構築した「圧縮するが膨張しない流体」モデルとそのリーマン解法を完成させ、SPH法で開発した氷モデルを適用し、実験データとの比較によるチューニングも加えて、「氷における高速衝突現象の解明と数値解析モデル構築」を完成させる。 高速飛行する氷片まわりの化学反応流を極超音速風洞と放電によるエネルギー注入で模擬する実験を行う。その場の発光分光に加え、実験後に回収した氷や水の成分分析により、HCNなど生命前駆物質が生成される可能性について検討する。さらに、H-C-O-Nを元素とする混合気体の熱化学非平衡反応の流体解析コードを援用し、「大気中を高速飛行する破砕氷片まわり化学反応流れ機構」の解明を行う。 得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行うと同時に、エウロパやエンセラダスなど氷表面を持つ天体への氷ペネトレータ適用を検討し、提案していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
ペネトレータが氷に衝突した際の氷の破壊や破砕片群の挙動を詳細に観察するために高性能の高速ビデオカメラを平成26年度に導入した。カメラと実験装置のマッチングが良好で、当初想定していた撮影用光源の増強をすることなく実験を進めることができたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
衝突により生じた破砕氷片群の挙動を数値シミュレーションする手法を開発中である。これまでは数値スキームの基本部分の開発が主であったが、今後、より実際的な多次元解析へと進める予定である。開発作業を効率よく進めるため、次年度使用額は、高性能PC導入に使用する計画である。また、これまでの実験より、中央に貫通穴を設けて衝撃荷重を緩和させることが有効であることがわかっている。これに基づく新しいペネトレータ形状デザインを行い、実験で効果を調べるための模型製作にも使用する計画である。
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