研究課題/領域番号 |
25289308
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
各務 聡 宮崎大学, 工学部, 准教授 (80415653)
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研究分担者 |
橘 武史 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50179719)
堀澤 秀之 東海大学, 工学部, 教授 (30256169)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロスラスタ / レーザ加熱 / 固体推進薬 / スロットリング |
研究実績の概要 |
提案する推進機,すなわち,作動の中断と再開を含めたスロットリングをレーザ加熱により実現するマイクロスラスタの実現を目指し,性能向上と燃焼の安定化に資する試作評価を行った.平成25年度において,ノズルのスロート断面積を0.75平方ミリメートル,設計推力室圧力を0.03 MPaとしたところ,不安定であったものの以前の推進機より安定した燃焼が得られていた.これを踏まえ,平成26年度も同じスロート断面積と設計推力室圧力としつつ, 1)ヒートロスと燃焼の反応に関係する特性燃焼室長L*,2)固体推進薬と接し点火に影響を与えるレーザ導入窓の材質,3)レーザヘッドの移動速度,4)推進薬の配合比をパラメータとして推力測定実験を行った. その結果,カーボンブラックを0.5%混ぜた固体推進薬を用いてレーザヘッドの移動速度を0.4~0.55 mm/sとすることにより安定した燃焼が得られ比推力は96秒となった.カーボンブラックの配合比を0.05%にまで低下させると,着火遅れ時間が増加し燃焼が不安定となるが,比推力は146秒となった.また,レーザ透過窓をアクリルにした場合は安定した燃焼が得られ性能も高くなったが,エポキシにすると性能が低下し燃焼が不安定になった. 固体推進薬の場合,燃焼反応が燃焼面近傍で完了するため,長い推力室は不要であり,むしろ燃焼室の大型化はヒートロスを招くため,特性燃焼室長L*は小さいほど性能が高くなると予測された.しかし,推力測定の結果,比推力は,L*=3.0 mのときに107秒,L*=1.5 mのときの85秒と予想に反する結果となった.このことから,提案する推進機のような0.03 MPaクラスの低推力室圧力では,従来の固体推進機とは異なり,燃焼反応が燃焼面近傍で完了していない可能性がある.以上ように,平成26年度において,安定燃焼を実現し性能とその特性を評価するに至っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度において,1)提案する推進機の安定作動の実現,2)推進薬の配合比,窓材質,燃焼室特性長L*をパラメータとした性能特性の評価,3)固相の温度測定に資するサーモグラフィーカメラの購入とストランドバーナの改良を行ってきたが,順調に推移しているといえる.その理由として以下に挙げられる. 1)について,安定作動は本研究において最も困難且つ重要な事項であった.というのも,固体推進機の燃焼ガス中には煤などの固体生成物が存在し,窓に付着することによってレーザを散乱させるためである.この問題に対し,敢えて分解温度が低いアクリルを窓にすることにより,燃焼ガスによってアクリルを分解し汚れをアクリルごと除去することを着想し,実験を行ったところ,安定した燃焼を得ることができた.2)については,本研究のように固体推進薬を低圧力下で燃焼させる前例はなく,特性室特性長L*への比推力の依存性は未知のままであったが,L*が影響することが明らかとなり,低圧力環境下におけるレーザ支援燃焼が従来の高圧下における燃焼と特徴が異なることが示された.これにより,推進機の性能向上に資する指針の一端が詳らかになったと言える. 3)の固相の温度測定および燃焼表面観察は,性能向上の指針を得るために不可欠であるが,昨年度までに,サーモグラフィーカメラの選定とストランドバーナの改造など,計測に必要となる準備をほとんど完了するに至っている.以上のように,安定燃焼の実現,試作機を用いた性能評価,温度測定や観察による内部現象解明のための準備を進めることができた.よって,本研究は,おおむね順調に推移していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究状況に鑑み,平成27年度は,1)推進薬の配合比と形状,2)レーザ透過窓の材質並びに形状,3)ノズル形状,をパラメータとして性能向上を図る.また,点火遅れ,不安定燃焼が生じる原因を明らかにするために, 4)燃焼中の固体推進薬の固相における温度測定,5)燃焼面の高速度カメラによる観察を行う. 1)については,固体推進薬の配合比をHTPBとAPの比率を30/70で固定してきたが,APの配合を増やし性能向上を図るとともに,推進薬の形状などをパラメータとして性能向上を試みる.また,2)については,アクリルなど分解温度が500K未満の材料を窓として用いてきたが,これまでの研究により,固体推進薬の点火温度は530 K,燃焼時における燃焼面の温度は730 Kであったことに鑑みて,より耐熱性の高いガラスやポリカーボネートを窓として利用し,分解温度と性能の総監を評価する.ノズルの形状を変更する(上記3))理由として,スロート断面積を小さくして推力室圧力を高くすることにより,高性能化を目指す.というのも,比推力や燃焼室圧力が不安定になったときの方が高くなっていた.理論計算上では,0.1MPaクラス前後において推力室圧力はほとんど性能に影響しないにも関わらず,このような結果が得られた原因は不明であるが,燃焼室圧力が高い方が性能に有利な可能性がある.そこで,スロート断面積を狭め推力室圧力を高めた状態での性能評価を実施する. 4)と5)に関しては,点火に遅れが生じる原因や不安定燃焼の原因を明らかにし,応答性と安定性の向上を図るためである.先述の通り,固体推進薬に接するレーザ透過窓の材質やレーザヘッドの移動速度により,性能や安定性が影響を受けていたことから,固相における加熱状態,すなわち温度分布が性能に影響を与えている可能性があるため,温度測定と観察によりこれを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の使用計画よりも少なく済んだ理由として,H25年度の備品費を抑制できたことが挙げられる.当初の計画では,備品として真空チャンバーとレーザ駆動用電源の2つを購入する計画であった.しかし,外部端子を用いて制御可能なレーザ駆動用電源を借り受けることができたため,予算の有効利用の観点から購入を取りやめている.もともと真空チャンバ関連の予算が大きかったため,その差額も大きく,2年目である昨年度においても予算を消化することなく3年目に持ち越すこととなった.
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次年度使用額の使用計画 |
平成25年度に真空容器を購入し実験を行ない推進機の安定作動を実現するに至ったが,熱平衡に到達後の推力を測定する必要があることから長時間作動をさせて試験を行う必要がある.また,現在の推進機の目標推力は0.1 Nであるが,宇宙機を用いたミッションの時間を短縮するためには1 N級の推進機も必要となる.よって,より高い排気能力が必要となることから今年度は真空系の増強を行う予定である.現在までの計画では,反応性ガスへの耐久性,機械的な堅牢性,性能(排気速度)を有するメカニカルブースターとドライポンプを購入する予定である.
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