研究課題/領域番号 |
25289317
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
橋本 博公 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30397731)
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研究分担者 |
末吉 誠 九州大学, 応用力学研究所, 助教 (80380533)
梅田 直哉 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20314370)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 損傷時復原性 / MPS法 / 浸水シミュレーション / 損傷区画 / SPH法 / 自動車運搬船 / 車両甲板 |
研究概要 |
損傷船舶の安全性評価においては損傷区画への浸水シミュレーションが重要となるが、損傷破口周りや区画内部の複雑な流れを予測し、大変形する自由界面を高精度に補足できる計算手法が求められる。そこで、ラグランジュ系のメッシュレス法である粒子法に着目し、浸水問題への適用性の確認と精度検証を試みた。 はじめに、2次元損傷区画模型を用いて強制横揺れ試験を実施し、MPS法とSPH法による計算との比較を行った。その結果、両計算手法は破口からの流出入を伴う複雑な流体挙動、区画内部に働く流体力の高精度推定が可能であった。また、区画内部に閉じ込められた空気の影響が無視できないことが確認されたので、水に加えて空気まで解く2層流計算およびボイルの法則にもとづく圧縮空気圧力の簡便な取り扱いについて検討し、前者は定量的な予測精度が得られるが計算負荷が高いこと、後者は実用的な予測精度にとどまるが計算負荷が変わらない利点があることを確認した。 つぎに、単純化した区画形状と損傷破口に対して、MPS法とSPH法を用いた3次元の浸水シミュレーションを行った。2次元の場合と同様に、両計算法の結果に有意な差は見られないこと、模型実験結果との一致度から粒子法は3次元浸水問題に対しても適用可能であることを確認した。 最後に、自動車運搬船の車両甲板を模した実際に即した水密区画模型を製作し、内部に浸水させた状態での強制横揺れ試験を行った。車両用のランプを介して甲板間の滞留水移動が生じるような複雑な流れに対しても、MPS法は安定して計算が可能であり、流体挙動や流体力について実用的な予測精度を与える結果となった。車両区画形状を単純化した2次元計算も行ったが、流体力の計算精度が著しく低下しており、3次元計算の必要性が認識された。また、滞留水挙動に関しても区画内部の空気の運動が少なからず影響を及ぼすことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
損傷区画への浸水問題に対するMPS法の適用性と計算精度の検証については、2次元損傷車両区画模型を用いた強制横揺れ試験を実施し、損傷口からの流出入や区画内部に働く流体力について、実験結果とMPS法およびSPH法の計算結果の比較を行った。また、単純化な損傷破口形状および損傷区画に対する浸水実験を実施し、2次元と同様にMPS法とSPH法の計算結果との比較を行うことで、粒子法の損傷浸水問題への高い適用性・予測精度を確認することができた。また、MPS法とSPH法の類似性や同一問題に対する予測精度の差の要因について理解が進んだ。 計算コードの高度化については、現在のコードでは鏡面境界を用いて物体表面条件を課しており、隅部で粒子数密度が正確に評価されない場合があるため、新たに粒子数密度の修正関数を導入することで計算の安定化を行った。 現実的な損傷事故シナリオへの対応については、その第一歩として、自動車運搬船を対象にその一水密区画を忠実に模したアクリル模型を製作し、浸水状況下での動揺問題を取り扱った。実験と同条件にて、MPS法を用いて200万粒子超の3次元強制横揺れシミュレーションを行い、オーバーターニングやダウンフラッディングが生じるような強非線形な滞流水挙動に対しても安定して計算結果が得られること、適切な粒子間距離を設定することで浸水状況や流体力の高精度予測が可能であることを確認した。 以上より、当該年度の計画に対しておおむね順調に研究が進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
複数区画にわたる連続浸水や外部流体を含めた浸水状況を高精度に予測するためには、MPS法にもとづく計算コードのさらなる高速化が求められる。そのため、例えば半陰解法であるMPS法に疑似圧縮性を導入して完全陽解法に移行した場合の計算負荷低減やそれに伴う計算精度の変化について検討を行う。完全陽解法に変更することで並列化効率の向上が期待でき、自由表面粒子に対して圧力ゼロの自由表面条件を課す必要がなくなるため、数値安定性の向上にも期待ができよう。 その一方、半陰解法を用いることで流入・透過境界など特殊な境界条件を容易に課すことができるので、半陰解法ベースの高速化についても検討を行う。また、しばしば指摘される不自然な圧力振動について、その原因のひとつとなっている単純な自由表面条件について改良を行うことが望まれる。 このようにして改良された計算コードの有用性を検証するため、平成25年度に製作した自動車運搬船の車両区画模型を用いて、様々な条件に対する区画内部への浸水実験を行い、MPS法でシミュレートした浸水状況や流体力の推定精度について順次検証していく。最終的には現実的な水密区画を有する模型船を用いた浸水実験を実施し、MPS法にもとづく浸水シミュレーションとの比較検証を通じて、損傷時の浸水状況や船体動揺を予測可能な計算ツールとしての確立を目指す。
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