高濃度かつ大量のトリチウムが核融合炉では燃料として使用される。このため炉内材料は高エネルギー状態のイオンや原子等に曝され、このトリチウムの一部は炉内材料の表面層に吸着・吸収・捕獲及び再放出される。このようなトリチウムの動的挙動はトリチウムのリサイクリング率の問題と同様に安全性の観点から特に注意を要する。即ち、表面層に保持されたトリチウムの一部は、材料内部への拡散のみならず、室温のような低温においても容易に表面から脱離し得ることである。特に、プラズマ対向材料の表面は、高エネルギー粒子による化学的・物理的スパッタリングを受けて損耗と同時に堆積物の成長が起こり、材料表面の物理的・化学的性質が時間とともに変化する。この様な変化はトリチウムの捕獲・脱離挙動に大きな影響を与える可能性がある。 このような観点より、本研究では炉内での粒子制御やメンテナンス作業時における安全対策の検討に資するための基礎的データベースの構築を目的として、表面改質を受けた材料表面のトリチウム捕獲・脱離挙動を評価するために0.2 keV以上のX線を測定可能な新規BIXS測定装置の開発とその適用性を調べた。従来、このような測定において大きな問題点はトリチウム曝露後に試料を一旦大気中に取り出してトリチウム保持量の測定が行われていたことである。即ち、トリチウム曝露後に試料を大気にさらすことにより、試料表面の化学的状態の変化が起こり、トリチウムの保持量や保持挙動が変化する可能性があり、炉内でのトリチウム保持挙動とは異なる結果を示す可能性がある。そこで、加熱排気からトリチウム曝露及びBIXS測定までの一連の操作おいて試料を大気にさらすことなく真空装置内で測定するために構築された新規BIXS測定装置を用いて種々のトリチウム保持試料を測定し、新規BIXS測定装置の適用性・有効性を確認した。
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