研究課題/領域番号 |
25289343
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
三戸 利行 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (10166069)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒートパイプ / 超伝導 / 低温 / 自励振動 / マグネット |
研究実績の概要 |
核融合炉用の超伝導マグネットに高温超伝導体を用いることができれば、低温超伝導体を用いた場合に比べて、より高い安定性と経済性が期待できる。しかし、核融合炉に必要な大型の高温超伝導マグネットを実現するためには、マグネットの巻線内部で発生した熱をいかに効率よく短時間で外部へ取り出せるかが重要となる。高熱伝導率と高熱拡散率を同時に達成できる熱輸送素子としてヒートパイプに着目し、低温での動作が可能なシート状の自励振動式ヒートパイプ(OHP)をマグネット巻線内部に組み込んだ新しい冷却構造の開発研究に取り組んでいる。高温超伝導(HTS)マグネット巻線内に組み込むことを想定し、機械強度が高く、流路断面積を大きくとれるシート形状のOHPとして、4枚のステンレス板を積層し、立体的な流路構造を持つOHPを独自に開発した。中央の上下2枚のベース板には、互い違いの位置となるヒートパイプ流路がレーザー加工機で溝加工され、上下の流路がつながるように端部でL字型の溝になっている。2枚を重ねることにより、上側から下側、下側から上側へと繰り返し折り返す流路を形成する。更にその上下にカバーとなる板を積層し、4枚の板を真空ロウ付けすることで立体的な流路構造を持ち、低温での使用にも耐える真空リークタイトなシート状OHPが構成できる。作動流体として水素を用い、低温での動作実験を行った。結果として、液体水素温度付近の動作温度範囲18 K - 24 Kで、OHP全断面で平均した等価的な熱伝導率が1,000 W/m・Kに達する優れた熱輸送特性を持つことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
OHPの優れた熱輸送特性により、HTSマグネットの運転温度の上昇に伴って問題となってくるマグネット構成材料の熱拡散率の低下が、HTSマグネットの熱暴走やホットスポットの発生を引き起こすことを抑止できることを実験で実証する。OHPを巻線内に組み込んだ高温超伝導(HTS)マグネットを試作するため、HTSマグネット巻線内に組み込み可能で機械的な強度にも優れたシート状OHPの開発成功の成果を受け、OHP組み込みHTSマグネットの設計検討及びHTSマグネットを巻線するための巻線機の製作を行った。
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今後の研究の推進方策 |
シート状OHPを試作したHTSマグネットに組み込み、HTSマグネット内の高熱負荷発生を模擬したヒーター入熱を加える。その高熱負荷発生の状態でもヒーター入熱を除去すれば、HTSマグネットの熱暴走が抑制できることを実証する。HTSマグネットの冷却には、小型冷凍機を用いて冷却したヘリウムガスを循環することにより、液体水素温度20Kの低温実環境での実験を行う。実験を行うためのHTSマグネットの製作、巻線を行うための巻線機の開発、マグネット内に組み込むシート状OHPの開発、20Kの低温での実験を行うためのクライオスタット及び冷却系の準備は順調に進んでおり、研究最終年度である平成27年度の実験による実証、実験後の解析検討ができる状態になっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
OHP冷却HTSマグネットの実応用が期待される用途として、超伝導磁気浮上による液体水素貯蔵装置への適用を想定し、HTSマグネットの具体的な設計検討を行った。結果として液体水素の安全な大量貯蔵を可能にする直径40mの球形タンクを想定したとしても、現在の市販のHTS線材を使用して磁気浮上用マグネットの設計が十分可能であることを確認した。この結果を受け、OHP冷却HTSマグネットの動作実証実験として、HTSダブルパンケーキ要素コイルを設計し直した。HTS要素コイルの再設計に時間を必要としたため、実験用HTS要素コイル製作のための費用の一部を次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の再設計したHTS要素コイルを製作し、開発済みのシート状OHPと組み合わせて、液体水素温度20Kでの動作実証実験を行う。実験に必要なHTS線材、巻線機、クライオスタット、小型冷凍機等の準備は整っている。実験に際しては、HTS磁気浮上コイルの地震時の対応として、浮上する液体水素貯蔵容器の振動を抑制する免震制御、それに伴ってHTSコイル巻線内に短時間に発生する交流損失にもコイルが堪えることを実証する。OHPの優れた熱輸送特性により、HTS要素コイルの熱暴走やホットスポットの発生が防止できることを実験で示すと共に、解析を行って更なる大型マグネットへの適用が可能であること実証する。
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