研究課題/領域番号 |
25289351
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
関村 直人 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10183055)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 原子力材料 / 照射損傷 / イオン照射 |
研究概要 |
高エネルギー粒子と結晶材料の相互作用によって形成される格子欠陥(照射欠陥)の発達挙動は、照射条件や材料条件によって大きく変化することが知られている。従って、原子炉材料の健全性評価や、放射線を利用した材料改質のためには、膨大な照射試験が必要とされてきた。 照射欠陥の発達は、核形成と成長の過程に大別されるが、特に核形成の過程は複雑であり、モデル化が難しい。そこで、本研究では、ある条件で予照射された材料を別の条件で追照射する「組合せ照射」によって、潜在する照射欠陥の検出、制御された構造の照射欠陥の導入、照射欠陥発達挙動の微分的な測定、などを効率的に実現する手法を開発することとした。平成25年度は、組合せ照射に用いる設備の整備と、予照射の一部を実施した。 まず、イオン加速器を用いたその場観察実験を高精度化するために、イオンビームの照射位置に対して観察装置を極めて精緻に位置決めすることを考えた。装置マウントを設計し、東京大学・原子力専攻の重照射損傷研究棟(HIT)に設置した。これによって、イオンビームの光軸に対して、試料位置および観察方向を自在に制御できるようになった。 また、軽水炉を模擬した環境で、炉内構造物の模擬材に対して予照射を開始した。照射した試料は透過電子顕微鏡や三次元アトムプローブによるミクロ組織観察に供するため、マイクロサンプリングした。 平成26年度は、ミクロ組織観察結果等に基づいて、予照射条件を定めると共に、その場観察装置内での追照射を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、平成25年度よりその場観察装置を用いた追照射を開始することを計画していた。本実験に必要なビーム条件としては、照射エネルギー 1MeV 程度、イオン束 10^16 ions/m^2 程度と評価された。予備試験を行った所、十分なビーム強度が得られておらず、装置の(サブミリメータオーダの)位置決めが試験結果に大きな影響を与える事が明らかになった。そこで、追照射に先立ってマウントの改良を実施する事とし、本実験に必要なビーム条件を達成した。 また、潜在する欠陥や、照射によって形成された微小な析出物の検出のために、低速陽電子ビーム分析装置の高効率化を検討していたが、陽電子線源の価格高騰のために断念せざるを得なかった。そこで、既存の低速陽電子ビーム分析装置を利用することに加え、三次元アトムプローブ法による組織分析を併用して析出物の評価を補うことを考えた。 これらの理由から、平成26年度以降に充実させる予定のミクロ組織観察を、前倒しして着手した。集束イオンビーム加工装置を使用してイオン照射材をマイクロサンプリングするための加工条件、加工速度、サンプリングに伴うダメージの程度の評価と、その除去方法等について、定量的にノウハウを蓄積した。これにより、次年度以降の試料調整が格段に効率化された。 したがって、当初計画から若干行程を変更したものの、研究は概ね順調に進捗していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度から27年度の上旬にかけて、3種類の組合せ照射を計画している。試料は、比較的均質なミクロ組織を導入したモデル合金である。 一つ目は、照射欠陥の成長に対する格子間原子―空孔の対消滅の影響を評価するための追照射である。照射イオンは 500 keV 程度のHイオン, 変化させるパラメータはイオン束である。照射欠陥の成長過程を継時的に観察し、結果を反応速度式で記述する。 二つ目は、照射欠陥の成長に対するカスケード損傷の影響を評価するための追照射である。追照射するイオンは、FeあるいはNi、変化させるパラメータは加速エネルギーである。Hイオン照射の結果とも比較しつつ、カスケード損傷が組織形成に与える影響を評価する。 三つ目は、照射欠陥の発達に与える結晶構造の影響である。まずは、先の二つの実験井おいて、一次元拡散の頻度と距離を、照射欠陥集合体の分布と関連付けて整理しておく。次に、一次元拡散が顕著に見られた幾つかのケースについて、照射温度を系統的に低減させて再実験を行う。照射欠陥のサイズの変化を、一次元拡散の頻度や距離と関連付けて整理する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画では、平成25年度に、微細な欠陥(格子欠陥+微細な析出物)を検出するための陽電子線源を計画していた。しかしながら、線源の価格高騰により、予定していたスペックの陽電子線源を購入する事が困難になったことから計画を変更し、微細な析出物の検出に三次元アトムプローブ法を適用することとし、必要な試料調整機器等を整備する事にした。 アトムプローブ試料の作成や照射には、集束イオンビーム加工装置のほか、専用の治具や処理等が必要とされるが、これには一定コストが継続的に発生することから、基金化された研究費の一部は次年度に繰り越し、次年度以降に継続的に使用することにした。また、線源の増強を要しない方法で、低速陽電子ビーム分析装置の高効率化を検討する。
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