今年度は、照射欠陥の複雑な発達挙動を明らかにするために、軽水炉材料のモデル合金に対して透過電子顕微鏡内(TEM)でイオン照射を行ってその場観察をすることにより、潜在する欠陥の検出と、欠陥状態変化の微分的な測定に関する成果を得た。 潜在する欠陥の検出のために、金に対して2MeV Feイオンを様々な温度で照射したところ、直径数ナノメートルの欠陥集合体が形成されては消滅する過程が観察された。欠陥集合体の形成はCCDカメラによる測定の1 フレーム (50 ms ) 以下の短時間に完了しており、集合体が成長する様子は観測されなかった。形成効率はイオン束の15 %程度であり、本実験の範囲では明確な温度依存性は見られなかった。この欠陥集合体はカスケード損傷によって高密度に形成された空孔型欠陥が短距離の熱拡散によって集合したものと考えられる。欠陥集合体の寿命は照射温度が高いほど短くなった。欠陥サイズの減少は連続的には生じず、数回の急激なサイズの減少によって消失した。この挙動から、欠陥集合体の消滅には、熱拡散している格子間原子型欠陥集合体との対消滅といった集合体同士の相互作用が大きく寄与しており、単空孔の放出や格子間原子の吸収といった点欠陥の拡散の影響は比較的小さいと考えられる。 欠陥状態変化の微分的な測定のために、290℃で約0.8 dpa照射したステンレス鋼から集束イオンビーム加工装置によるリフトアウト法によってTEM試料を作製した。この試料には平均直径4 nm 程度のブラックドットが1立米あたり5E+22 個ほど存在する。これらのブラックドドットを2 MeV Feイオンを400℃で照射することにより発達させると、多くのブラックドットは縮小して消失したが、一部のものは成長して直径15 nm 程度のフランクループになった。成長挙動にはステンレス鋼の溶質元素による違いが見られた。
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