研究課題/領域番号 |
25290001
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
高草木 薫 旭川医科大学, 医学部, 教授 (10206732)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 姿勢筋緊張 / 姿勢反射 / 網様体脊髄路 / 前庭脊髄路 / 予期的姿勢調節 / 歩行誘発野 / パーキンソン病 / GABA作動性投射 |
研究実績の概要 |
中脳に存在する脚橋被蓋核(PPN)領域には姿勢筋緊張を調節する領域(PPN抑制野)と歩行運動の制御に関与する領域(中脳歩行誘発野;MLR)が存在する.また,手のリーチング動作や歩行運動などの随意運動における姿勢の制御においても,大脳基底核(BG)からPPN領域への出力が重要な役割を持つと推定されている.本研究の目的は,BGからPPN領域への投射系が,どのように脳幹から脊髄への下行系の活動を修飾して,これらの運動時における姿勢制御に関与するのかを解明することである.平成28年度は次の2項目の研究を実施した. 除脳ネコ標本を用いた研究では,電気生理学的手法を用いて前庭脊髄路と網様体脊髄路による姿勢制御機構の解析を試みた.その結果,外側前庭脊髄路は同側後肢伸筋への興奮と屈筋への抑制作用,ならびに,対側下肢伸筋への抑制と屈筋への興奮を誘発した.一方,抑制性網様体脊髄路は両側下肢の伸筋と屈筋に対する抑制作用を,興奮性網様体脊髄路は下肢伸筋と屈筋への興奮の作用を誘発することが分かった.これは,同側の外側前庭脊髄路が伸筋(抗重力筋)活動を亢進させて立位姿勢を維持する役割を持つこと,そして,網様体脊髄路は両側の伸・屈筋の筋緊張を同時に亢進-減少させることによって立位維持や運動時の関節安定性に寄与することを示唆する. 慢性無拘束ネコを用いた研究では,安定した前肢リーチング餌取りタスク学習を習得させることに成功した.ネコの運動は前後肢に生じる床反力計とビデオ画像を用いて解析した.床反力の変化から姿勢制御の指標となる圧力中心を算出した.その結果,前肢が床から離れる時点における圧力中心は,リーチング動作終了時の圧力中心とほぼ等しいことが明らかとなった.これは,リーチング動作の運動プログラムは,目的とする随意動作とこれを可能にする姿勢制御に関する双方のプログラムから構成されることを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.平成25-27年度の研究によって,大脳基底核は脚橋被蓋核領域へのGABA作動性投射を介して網様体脊髄路の興奮性を調節することにより,姿勢と筋緊張を制御することを証明することができた.本成績は,パーキンソン病の姿勢異常や歩行障害に対して施行される脳深部刺激法の作用機序の解明に繋がると共に,この投射系が実験動物だけで無くヒトの姿勢や歩行の制御に極めて重要であることを示すもので」ある. 2.平成28年度は,①除脳ネコ標本を用いて「姿勢制御における前庭脊髄路と網様体脊髄路の役割」と,②慢性無拘束ネコ標本における「前肢リーチング動作に随伴する姿勢制御」の解析を実施した. ①では,各下行路が異なるメカニズムで立位姿勢のに関与することを示した.得られた成績はパーキンソン病の屈曲姿勢が前庭脊髄路の機能低下と促通性網様体脊髄路の機能亢進という機序で説明が可能となることを示唆する.しかし,この仮説を推進するためには基底核の出力がどのように前庭脊髄路の機能を修飾するのか(本来は27年度実施)を解明する必要がある. ②の研究によって,随意運動に随伴する姿勢制御を解析できる実験モデルを確立することができた.これによって,除脳ネコ標本で得られた姿勢制御のメカニズムが,随意運動においてどのように機能するのかを解析・評価することが漸く可能となった. 3.上記1の研究成果は当初の研究予定には組み込まれれていなかったが,予想以上の反響を国内外から得られている.一方,2-①の研究は平成27年度までに終了する予定であるにも関わらず,その一部は未だ実施するに至っていない.2-②の慢性実験モデルが確立できたことは,最終年度の研究を実施する上で極めて重要である.28年度の努力によって研究計画は進捗したが,解析結果のQualityは未だ満足できるものでは無い.従って,現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は本課題の最終年度である.28年度と同様,急性実験と慢性実験とを展開する. Ⅰ.急性実験;除脳ネコ標本(および除脳ラット標本)を用いて,基底核-脚橋被蓋核投射系がどのように前庭脊髄路と視蓋脊髄路による姿勢制御を修飾するのかを解析する.具体的には,① 外側および内側前庭神経核や上丘に加えた電気刺激によって誘発される姿勢変化や眼球運動を解析し,前庭動眼反射や前庭脊髄反射,眼球-頭頸部運動を同定する.② BGの出力核である黒質網腰部(SNr)ならびにPPNに微小電気刺激および微量薬物注入を試み,前庭脊髄路が関与する前庭動眼反射と前庭頸反射,そして,上丘刺激に伴う眼球-頭頸部運動がどのように変化するのかを解析する . Ⅱ.慢性実験;ネコの慢性標本における前肢リーチング動作による餌取りタスクを学習させる.そして,学習が完成するプロセスにおける姿勢変化を筋活動・床反力ならびにビデオ画像を用いて解析する.次いで,床面の傾斜角度の変化やターゲットの空間位置の変化など,前庭感覚や視覚情報を条件を変えた際の前肢リーチング動作と随伴する姿勢変化を解析する.これらの条件設定の後に,電気刺激法・微量薬物注入法・分子遺伝学的手法などの方法を用いてSNr-PPN投射系の活動を修飾した際に,リーチング動作と姿勢制御がどのように変化されるのを評価する. Ⅲ.当初はウイルスベクター二重感染法によってSNr-PPN投射系の活動を修飾する予定であった.しかし,本学の動物実験施設改修工事のため,同手法を実施できる設備使用が不可能となった.その代替え手法として光遺伝学的手法(optogenetics)を用いる.具体的には,非可逆的神経損傷物質であるクロリンビーズを含んだ逆行性トレーサーをPPNに注入し,逆行性に標識されるSNr細胞の活動を光刺激によって選択的にSNr-PPN投射系を遮断する手法である.
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