研究概要 |
チャネルロドプシン2 (ChR2) の第2膜貫通ヘリックス (TM2) に見られるE82, E83, E90, E97, E101の5つのグルタミン酸残基は,イオンチャネル機能に関わる重要なモチーフのひとつと考えられている。しかし,Mesostigma viride由来のチャネルロドプシン (MChR1) では,ChR2のE83に相当するアミノ酸がバリンに,E97に相当するアミノ酸がアラニンに置き換わっている。ChRのイオン透過・透過イオン選択メカニズムを明らかにし,透過イオン選択性に優れたチャネルロドプシン改変体を創出する上で,このモチーフの機能の差異を明らかにすることが重要と考え,この5つのグルタミン酸残基が透過イオンと相互作用することで,イオン透過や透過イオン選択性が規定されているとの仮説の検証を試みた。MChR1改変体の作製では,ホールセルパッチクランプ電流記録下において,野生型のMChR1と比較して,約10倍の大きさの光電流が得られる改変体の作製に成功し,これによりMChR1の光電流特性の詳細な解析が可能になった。この改変体を用いて,Gd3+による光電流抑制効果を調べたところ,ChR2のE97に相当するアラニンをグルタミン酸に置換した点変異体では,Gd3+の結合が高親和性にシフトすることがわかった。一方で,発生する光電流の大きさは,この置換によって約1/15倍に減少した。これらの結果は,TM2に保存されている5つのグルタミン酸残基は,透過イオンと相互作用することで,イオン透過や透過イオン選択性を規定しているとの仮説と矛盾しない。一方,ChR2の構造-機能解析では,透過イオン選択フィルターをして機能していると考えられる新たなアミノ酸残基を発見した。これらは,透過イオン選択性に優れたチャネルロドプシンの創出につながる可能性のある発見である。
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