本研究では、コモンマーモセットを霊長類のモデルに用い、聴覚皮質の領野区分と視床との神経結合を調べることを研究目的として行った。これまでの研究によって、皮質活動をイメージングする方法を確立したため、本年度では、これを基礎に、皮質の領野区分に関する研究が大きく進展した。霊長類の聴覚皮質に関して、現在コアーベルトーパラベルトのモデルが提案され、広く受け入れられている。本研究では、コア領域に関して、従来報告されている通り、一次聴覚野(A1)、R野とRT野の存在が確認され、それぞれの周波数地図および周波数勾配の方向も従来の報告と一致した。一方、上側頭回にあるベルト領域に関して、CL野、AL野、ML野、とRTL野の存在が報告されていたが、本研究では、CL野、AL野、とML野の存在を確認し、それぞれの領野における周波数勾配の方向も従来通りであった。予期しないことに、R野とAL野の間に、新奇な領野を二つ発見した。その一つはR野に隣接し、明確なトノトピーを持っていた。その周波数勾配の方向はR野と鏡像に近い関係にあった。この領野をMAL野と名付けた。もう一つはMAL野とAL野の間に位置し、明確なトノトピーを持たない小さな領野であった。これをNT野と名付けた。MAL野とNT野のいずれも広い周波数範囲(1-24 kHz)の純音に反応した。従来の報告では、外側ベルトを含む全てのベルト領野にトノトピーが見られるとしていたため、NT野の発見は、ベルト領域の最初のトノトピーを示さない領野の発見となる。NT野は広い範囲の周波数を統合し、時間情報の処理に関わる可能性が考えられる。以上の結果は、ベルト領域は従来考えられている領野構成よりも、複雑な領野構成を持っていることを示しており、霊長類の聴覚野に関するモデルを修正する必要性を示している。
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