研究課題/領域番号 |
25290015
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20390685)
吉原 誠一 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (90360669)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 成体神経新生 / 嗅球介在ニューロン / 神経活動依存性 / 神経可塑性 / 神経再生 / 嗅覚系 |
研究実績の概要 |
嗅球介在ニューロンは胎生期のみならず、成体期においても新生され、新たに神経回路に編入されるというユニークな特徴を持つ。また、嗅球の神経回路は匂い経験に依存して再編されると考えられているが、その機構は明らかにされていない。そこで本研究では、嗅球における匂い経験依存的な神経回路再編の分子機構を解明する。 申請者らはこれ迄に、匂い経験依存的な嗅球介在ニューロンの樹状突起・スパインの発達に関与する遺伝子5T4やNpas4を同定した。本研究では、(1)5T4やNpas4に関連する因子の探索、並びに、(2)5T4やNpas4ノックアウトマウスの解析を通して、匂い経験依存的な神経回路再編の分子機構機構とその生理的意義を明らかにする。 (1)についてはそれぞれ、酵母two hybrid 法やChIP-Seq法を用いて単離し、レンチウイルス系を用いて、嗅球介在ニューロンの樹状突起・スパインの発達に関する機能解析を行うことにより、嗅球における匂い経験依存的な神経回路再編の分子ネットワークを解明する。 (2)については、嗅球介在ニューロンの樹状突起・スパインの発達に異常が生じると予想されるが、それらの神経回路について、パッチクランプを用いた電気生理学的解析、及び、匂いの弁別学習を用いた行動学的解析を行う。これらの解析を通して、嗅球における匂い経験依存的な神経回路再編の生理的意義を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私共はこれまでに、匂い刺激依存的に発現する転写因子Npas4を同定し、それが嗅球介在ニューロンの樹状突起におけるスパインの形成を制御することを示していたが、その分子機構はわかっていなかった。そこで本研究において、私共は、Npas4が転写因子であることから、その下流にあるスパイン形成に関与する遺伝子の発現を制御していると推測した。先ず、Npas4蛋白質が結合するDNA領域を同定するクロマチン免疫沈降‐シークエンシング法を用いて、その下流遺伝子を探索した。得られた候補遺伝子について、嗅球介在ニューロンでの発現を調べたところ、蛋白質の分解を促進するユビキチンリガーゼの1つであるMdm2遺伝子の発現が、Npas4ノックアウトマウスでは野生型よりも増加していた。次に、Mdm2が分解する標的蛋白質を、プロテオミクスの一つであるiTRAQ法を用いて探索した。その結果、Npas4ノックアウトマウスの嗅球介在ニューロンでは、Mdm2蛋白質の増加に伴って、微小管結合蛋白質であるDcxの分解が促進されていた。また、Dcx遺伝子を嗅球介在ニューロンで過剰発現させると、スパイン密度が増加することが判明した。以上のように、私共は、嗅球介在ニューロンでは、Npsa4の発現量に応じて、スパイン形成に関わるダブルコルチンがMdm2のユビキチン化により分解され、スパイン密度が制御されていることを明らかにした(Yoshihara et al, Cell Reports, 8, 843-857, 2014)。
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今後の研究の推進方策 |
(1)5T4やNpas4関連分子による嗅球介在ニューロンの樹状突起発達の制御機構 前年度に引き続き5T4分子の細胞内領域に結合する分子や、Npas4分子がプロモーター領域に結合する下流遺伝子に関して、それぞれ嗅球介在ニューロンの樹状突起発達やシナプス形成における機能を解析する。
(2)ノックアウトマウスにおける嗅球神経回路の電気生理学・行動学的な解析 2-1)ノックアウトマウスの行動学的な解析:5T4やNpas4ノックアウトマウスにおいては、感覚入力依存的な介在ニューロンの樹状突起の発達不全やスパインの形成不全が予想されるが、これらの変化がマウス個体の嗅覚情報処理にどのような影響を及ぶすのかを行動学的に解析する。 2-2)ノックアウトマウスにおける嗅球神経回路の電気生理学的な解析:5T4やNpas4ノックアウトマウスは、それぞれ嗅球介在ニューロンの感覚入力依存的な樹状突起の発達不全やスパインの形成不全を示すと予想される。そこで、嗅球介在ニューロン(顆粒細胞)の神経活動を、パッチクランプ電極を用いた電気生理学的手法で測定することにより、これらのマウスにおいて、感覚入力依存的な樹状突起発達の異常が、神経回路の動作機構にどのように影響を及ぼすのかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H26年度では、消耗品の購入などの支出を控えたので、直接経費が35万円程度残った。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度では、消耗品の購入などの支出が、H26年度と同程度見込まれるので、前年度分と今年度分を併せても、直接経費は残らないと考えている。
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備考 |
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