研究実績の概要 |
嗅球介在ニューロンは胎生期のみならず、成体期においても新生され、新たに神経回路に編入されるというユニークな特徴を持つ。また、嗅球の神経回路は匂い経験に依存して再編されると考えられているが、その機構は明らかにされていない。申請者らはこれまでに、嗅球介在ニューロンにおける匂い経験依存的な樹状突起やスパインの発達に、それぞれ関与する膜蛋白質5T4や転写因子Npas4を同定した(申請者ら,J Neurosci, 32, 2217, 2012)。そこで本研究では、「5T4やNpas4分子が、どのようにして匂い経験依存的な神経回路再編を制御しているのか?」を解析した。
1)H25-26年度において、嗅球介在ニューロンでは、転写因子Npas4の発現量に応じて、スパイン形成に関わるダブルコルチンがMdm2のユビキチン化により分解され、スパイン密度が制御されていることを明らかにした(申請者ら, Cell Reports, 8, 843, 2014)。
2)H27年度において、膜蛋白質5T4ノックアウトマウスを用いて、嗅球神経回路の電気生理学的な解析や行動学的な解析を行った。その結果、5T4を発現する嗅球介在ニューロンのサブセットがなくなると、匂いの検出感度が低下し、2つの匂い物質を識別することができなくなった。従って、5T4陽性の介在ニューロンは匂いの検出や識別行動に必要不可欠であることが明らかになった(J Neurosci, リバイス投稿中)。ヒトにおいても、5T4遺伝子に有害な変異が生じると、嗅球の神経回路が乱れ、匂いを感じない、識別できないなどの嗅覚障害に陥る可能性もあると考えられる。今回の研究成果は、嗅覚障害やその他神経疾患の予防や治療につながると期待される。
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