研究実績の概要 |
近年、糖尿病や肥満などのメタボリック症候群と同様に、インスリン抵抗性を改善することが神経変性疾患の治療に有効であると推定されている。我々は、抗炎症効果をもち、インスリン受容体シグナルの感受性を高める作用を持つアディポネクチン(APN)がαシヌクレイントランスジェニックマウスにおいて、αシヌクレインの凝集の抑制、ロータロッドやポールテストで運動機能が改善することを観察した。さらに、実際のアルツハイマー病(AD)患者の血液、脳脊髄液、剖検脳におけるAPNの発現をELISAや組織学的に解析した結果、メタボリック症候群とは逆に、ADでは、血清APN濃度が上昇することを見い出した。実際、多くの論文はADにおいて、血清のAPNが増加することを観察している。特に、最近のMayo Clinicの報告は、AD患者の血清APN濃度とアミロイド病変・認知機能低下が相関性することから、ADの病態においては、APN のgain of functionが関与している可能性が示唆されたのである(Wennberg et al. JAD, 2016)。初期の神経変性下において、インスリン受容体シグナルの不活化を補うために、APNの発現が上昇したと考えるのが自然である。しかしながら、APNはtauにtrapされ、蛋白凝集、神経原繊維変化は促進され、封入体(タングル)形成へと至ると考えられる(Waragai et al. JAD, 2016)。このように、APNが神経変性に対して抑制作用・促進作用のいずれも併せ持つのなら、それに対応した治療戦略が必要となろう。まず、神経保護作用を促進するためには、メタボリック症候群に対する治療戦略と同様にAPN受容体アゴニストにより、APN受容体シグナルの促進が考えられる。さらに、APNの神経変性促進作用にtauが大きく関係しているのなら、tauの免疫療法が効果的であろう。
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