研究実績の概要 |
本年度は、小脳神経回路網形成におけるNRXNsの役割を明らかにするために、小脳顆粒細胞(平行線維)、下オリーブ核(登上線維)でNRXNsを特異的に欠損する遺伝子改変マウスの樹立を行なった。Nrxn1,2,3の細胞膜貫通領域をコードする領域をloxP配列で挟み、Cre組換え酵素依存的にこれらの領域を欠損させるマウスを作製した。作製したマウスは小脳顆粒細胞でCreリコンビナーゼが発現しているマウス系統および下オリーブ核でCreリコンビナーゼが発現しているマウス系統との交配を実施した。本年度までに小脳顆粒細胞選択的Nrxn1,2,3欠損マウスが少数得られた。これらのマウスは重篤な運動失調を示すことから、間接的ではあるがloxP間のCre依存的欠損が確認された。脳部位特異的Nrxn1,2,3欠損マウスが樹立の成功は、小脳神経回路網形成の分子基盤を明らかにする上で極めて重要な研究進展であると考える。また、本年度は併せてGluRδ2-Cbln1-NRXN 三者複合体を介したシナプス前終末分化誘導に関わる細胞質内分子複合体の同定を行なった。GluRδ2のN末端細胞外領域をFc融合タンパク質として精製し、磁気ビーズに結合させた後、培養小脳顆粒細胞に添加した。磁気ビーズ上にプレシナプスを誘導させた後、膜透過性クロスリンカーで処理し、複合体を単離した。質量分析装置を用いて網羅的に解析した結果、GluRδ2のN末端細胞外領域を結合させた磁気ビーズから細胞質内タンパク質が35種類位程度同定された。結合候補分子の発現ベクターを構築し、質量分析でスコアの高い候補分子についてGST pull-downアッセイを行なった。現在までに、NRXN1の細胞質内領域結合タンパク質として4種類の新規結合分子が同定されており、独自に開発したスクリーニング法により下流シグナル分子が効率良く単離できることが示された。
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