研究課題
現在までの研究により、ES細胞から分化誘導した始原生殖細胞を胚齢12日目の雌生殖巣の体細胞と共培養させ、培養皿上で卵子にまで分化させる培養系を確立した。この培養法で得られた卵子は体外受精により健常なマウスになることが確認された(論文作成中)。またES細胞に加えてiPS細胞からも同様に受精可能な卵子を分化誘導することができた。この培養系では始原生殖細胞が卵子になる過程において、成体内の卵巣に見られるような原始卵胞のステージを経ないことが明らかになった(つまりすべての卵母細胞が活性化される)。本研究の計画にあるとおり、この培養系の確立により体外培養での原始卵胞の作製のための基盤が確立された。培養系の確立と並行して、体外培養で得られた卵母細胞系列と体内の卵母細胞系列の各ステージの遺伝子発現を比較した。その結果、成体の卵巣中の原始卵胞で特異的に発現する遺伝子群を多数単離した。これらの遺伝子群は原始卵胞の維持に必要な遺伝子群と思われるが、その遺伝子数が多数であるために、機能解析のためには絞り込みを必要とした。また同時に遺伝子発現解析を参照することにより、原始卵胞から活性化された際に発現が上昇する遺伝子を単離した。それらの中からNpm2遺伝子を選択した。Npm2遺伝子の発現は卵母細胞において原始卵胞から1次卵胞に移行する際に著しく上昇することから、この遺伝子座にmCherryをノックインしたレポーターES細胞を作製した。
2: おおむね順調に進展している
当研究の柱は(1)原始卵胞の形成を評価するための培養系の確立、(2)原始卵胞で特異的に発現する遺伝子の単離、そして(3)確立した培養系を利用した単離遺伝子の機能解析である。本年度までに、(1)のすべて、(2)のおおよその部分を終え、(3)を実行するためのレポーター細胞の確立を終えている。(2)において、多数の遺伝子が単離されたために、絞り込みが必要であるが、おおむね順調に進展していると考えられる。
原始卵胞の確立・維持に機能的な遺伝子の絞り込みを行うために、体内において原始卵胞の確立時期の卵母細胞における遺伝子発現を詳細に経時的に解析する。これらの解析を通して、現在までに得られている候補遺伝子について絞り込みを行う(20-30遺伝子程度)。絞り込まれた遺伝子をBVSC-Npm2-RosaTet ES細胞に導入する。このES細胞はすべての分化段階の卵母細胞のマーカー(Stella-ECFP)、活性化された卵母細胞特異的なマーカー(Npm2-mCherry)に加えてDox依存的に導入遺伝子の発現を誘導するRosa-rtTAをもつ。単離された候補遺伝子をDox依存的発現ベクターに組み込み、確立した卵母細胞分化誘導系に供する。これまでの研究から、通常の培養ではすべての卵母細胞は原始卵胞で停止することなく活性化されるが、候補遺伝子の強制発現により原始卵胞で停止するもの(Stella-ECFP(+)、Npm2-mCherry(-)、細胞のサイズが小)が観察されるか否かを検討する。
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http://www.hgs.med.kyushu-u.ac.jp/