研究課題/領域番号 |
25290034
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
石田 靖雅 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (10221756)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 遺伝子トラップ / ES細胞 / 長鎖非コードRNA / NMD |
研究実績の概要 |
私たちが開発したUPATrap型のポリAトラップ法では、NEO終止コドンの直下にIRES配列が接続されており、いったんNEO部分の翻訳が終結しても、IRESにリボソームが再会合するため、トラップされた遺伝子の最後のエクソン上に存在する終止コドンまで「第二の翻訳」が継続する。細胞質におけるこの人工的な翻訳により、核内でスプライシングの際に形成されたexon-junction complex (EJC) が融合型mRNAから排除されるため、NMDの引き金シグナルが消失し、NEOタンパク質は安定的に発現される。 しかし、トラップした遺伝子がlncRNAのもので、全てのエクソンを貫通するopen reading frame (ORF) が存在しない場合には、事情が大きく異る。つまり、IRESによって誘発されたタンパク合成は、必ずどこか途中のエクソンに存在する終止コドンの位置でストップするため、それより下流に存在するEJCはリボソームによって排除されず、融合型mRNA上に残存することになる。そのようなEJCは、融合型mRNAにNMDを惹起するため、NEOタンパク質の蓄積が妨げられ、遺伝子トラップは不成功に終わる。 私たちの先行研究によれば、NMDを抑制するためには、遺伝子の前半に生じた「異常な」終止コドン(premature TC)の下流において、必ずしも人工的な翻訳を誘発する必要はない。そのような終止コドンの下流に RNAの非常に強固な二次構造 を作れば、NMDを抑制することが出来る。平成27年度には、この先行研究で用いたNMD抑制エレメントの改良を試み、トラップ・ベクター内のNEOの下流に組み込んだ上で、マウスES細胞での遺伝子トラップを実施した。トラップされた遺伝子の中に、従来よりも高頻度にlncRNA遺伝子が含まれることを確認できたため、実験は成功したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度には、私たちの先行研究で用いたNMD抑制エレメントを改良し(RNAのレベルで形成される高次構造をより強いものにした)、トラップ・ベクター内のNEOの下流に組み込み、マウスES細胞を用いて遺伝子トラップを実施した。その結果、NEO部分とトラップされた遺伝子の融合型mRNAのNMDが回避されていることを確認することができた。さらに、トラップされた遺伝子の中に、従来よりも高頻度にlncRNA遺伝子が含まれることを確認することができた。しかしながら、このNMD抑制エレメントの改良のステップに想定以上の時間を要してしまったため、補助事業期間の延長を申請し、承認された。
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今後の研究の推進方策 |
<トラップされたlncRNA遺伝子の発現パターンの解析> 平成28年度には、完成した改良型ベクターを用いて重点的に遺伝子トラップを行い、トラップされたlncRNA遺伝子の発現パターンを解析する。既知遺伝子とは異なり、本研究で着目するlncRNA遺伝子には関連するESTが存在しないことも多く、米国NCBIのUniGeneデータベースなどを利用してマウス体内における発現パターンを完全に類推することは難しい。そのため、候補遺伝子ごとにPCR用プライマーを設計してRT-PCRを行い、発現部位を解析する必要がある。 <ES細胞クローンの選定とノックアウトマウスの作製> トラップされたlncRNA遺伝子のうち、免疫系組織(胸腺、脾臓、リンパ節など)や神経系組織(脳や脊髄など)で特異的に発現するものを選別する。そして定法に従いノックアウトマウスを作製する。個体に免疫異常や行動異常などが観察される場合には、さらに詳細な解析を加える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には、私たちの先行研究で用いたNMD抑制エレメントを改良し(RNAのレベルで形成される高次構造をより強いものにした)、トラップ・ベクター内のNEOの下流に組み込み、マウスES細胞を用いて遺伝子トラップを実施した。その結果、NEO部分とトラップされた遺伝子の融合型mRNAのNMDが回避されていることを確認することができた。さらに、トラップされた遺伝子の中に、従来よりも高頻度にlncRNA遺伝子が含まれることを確認することができた。しかしながら、このNMD抑制エレメントの改良のステップに想定以上の時間を要してしまったため、補助事業期間の延長を申請し、承認された。
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次年度使用額の使用計画 |
分子生物学試薬の購入に約200,000円、細胞培養用培地とウシ胎児血清の購入に約100,000円、各種抗体の購入に約200,000円、論文投稿諸費用のために約20,000円を要する。
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