私たちの先行研究で用いたNMD抑制エレメントを改良し(RNAのレベルで形成される高次構造をより強いものにした)、トラップ・ベクター内のNEOの下流に組み込み、マウスES細胞を用いて遺伝子トラップを実施した。その結果、NEO部分とトラップされた遺伝子の融合型mRNAではNMDが回避されていることを確認することができた。さらに、トラップされた遺伝子の中に、従来よりも高頻度にlncRNA遺伝子(候補)が含まれることを確認することができた。平成28年度には、この完成した改良型ベクターを用いて重点的に遺伝子トラップを行い、トラップされたlncRNA遺伝子(候補)の発現パターンを解析した。既知遺伝子とは異なり、本研究で着目するlncRNA遺伝子には、関連するESTが存在しないことも多いため、米国NCBIのUniGeneデータベースなどを利用して、マウス体内における発現パターンを類推することは、予想通り難しかった。そのため、候補遺伝子ごとにPCR用プライマーを設計してRT-PCRを行い、発現部位を解析する必要があった。トラップされたlncRNA遺伝子(候補)の中には、RNAレベルの発現が確認できないものも存在した。トラップされたlncRNA遺伝子(候補)のうち、免疫系組織(胸腺、脾臓、リンパ節など)や神経系組織(脳や脊髄など)で特異的に発現するものを選別し、定法に従いノックアウトマウスを作製する、という当初の予定であったが、これまでのところ、免疫系組織や神経系組織に高度に限局した発現パターンを示すlncRNA遺伝子(候補)がトラップされたES細胞クローンは樹立されていない。今後はさらに遺伝子トラップ実験を追加して、そのようなES細胞クローンの樹立を目指す必要がある。
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