研究課題
基盤研究(B)
がんの“組織多様性”の形成には、がん周囲環境からのシグナルによって調節される可塑的なエピゲノムが深く関与していると推測されるが、その詳細な分子機構についてはほとんど解明されていない。本研究では、これまでの脳がん幹細胞の分化誘導時におけるエピゲノム解析を発展させ、細胞の周囲環境とエピゲノムリプログラミングを結ぶ機構の解明、およびその分子基盤を標的とした、より特異性の高い人為的エピゲノム制御を目指す。本年度は、①脳腫瘍発生MADMマウスモデル (Mosaic Analysis with Double Markers, MADM)の構築、および ②Writer(エピゲノム書き込み)、Reader(エピゲノム読み込み)、Eraser(エピゲノム消去)に関わるタンパク質複合体を形成するための“足場”となり、さらに複合体を特定遺伝子領域に誘導する非翻訳RNA (long intergenic non-coding RNA, lncRNA)、に焦点を絞り研究を行った。①これまでMADMマウスは米国共同研究者から供給されたマウス腫瘍細胞を解析していたが、本研究でより詳細に解析を進めるために、MADMマウスを研究室で飼育することが必要となった。現在研究室でのMADMマウスの再樹立がほぼ整った。さらにMADMマウス由来の腫瘍細胞から腫瘍特異的ヒストン修飾異常の誘導に関わるlncRNAの同定を行った (lncRNA-F)。②ヒト脳がん幹細胞の維持に関わるlncRNAのうちlincAを同定し、lincAはNotchシグナルにより発現制御されることを見出した。またlincAの新たな機能解析として、他のマイクロRNA(miRNA)との相互作用、およびそのRNAスポンジ効果について解析を行なった。lincAはmiR-145と相互作用することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、外部シグナルによる脳がん幹細胞のエピゲノム制御機構の解明を目指して、1) 細胞外シグナルにより制御されるエピゲノム関連タンパクの翻訳後修飾、2) 翻訳後修飾によるエピゲノム修飾酵素の生物学的活性の調節、3) エピゲノムの書き込み、読み込み、消去に関わるタンパク質が複合体形成するための足場を与え、特定遺伝子領域に誘導するlncRNAに焦点を絞り解析を行う。特に解析モデルとして、ヒトがん幹細胞モデル、および脳腫瘍発生MADMマウスモデルを用いることで、がん細胞と周囲環境との相互作用に関わる解析を試みる。エピゲノム制御に関わるこれらのパスウェイを明らかにすることで、がん細胞が細胞外からの情報をいかにエピゲノムに反映させ、細胞の機能制御を行っているかの理解につながり、加えて、ゲノムの部位特異的なエピゲノム修飾のメカニズムを解明することが期待できる。さらに、4) その分子基盤を標的とした人為的制御を目指すことで、より特異性の高いエピゲノム制御治療薬の開発が期待できると考える。本年度は3) の解析およびMADMマウスの作製を中心に行った。MADMマウスの作製がほぼ終了し、本研究においてより応用性の高い研究ができる準備が整った。3) の解析は予定通り達成している。特にMADMマウス細胞株を用いて新規lncRNA であるlncRNA-Fを同定しており独創性の高い結果が得られつつある。一方でEZH2の恒常的過剰発現細胞株が樹立できず、外部シグナルによるEZH2の翻訳後修飾については計画より遅れている。
本研究課題については、ほぼ順調に進展している。今後の研究は以下の方策に従い展開する。1.がん幹細胞およびMADMマウスを用いた、がん細胞特異的エピゲノム修飾異常の誘導機序について解析を進める。特にエピゲノムの書き込み、読み込み、消去に関わるタンパク質が複合体形成するための足場を与え、特定遺伝子領域に誘導するlncRNAの解析が順調に進んでおり、当初の実験計画に従いメカニズムの解明を目指して研究を推進する。2.本研究で同定したlncRNAと結合するエピゲノム修飾タンパク複合体が確定しつつある。特定遺伝子部位のリクルート機構の解明につながる可能性が高く、lncRNAを標的とした治療法の開発を試みる。3.またEZH2の恒常的過剰発現細胞株を得ることが困難であり、その原因が現時点では不明である。EZH2を含めたエピゲノム修飾酵素は、リン酸化等の翻訳後化学修飾を複数のアミノ酸残基で多彩に受けていることがわかっており、細胞外からの刺激応答とエピゲノム関連タンパクの翻訳後修飾様式との相互作用を明らかにするために、一過性過剰発現株を用いて解析を試みる。
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