研究課題
がんが難治性疾患である理由の一つに、がんは進展とともに複数の細胞集団を形成し、各々の集団が様々な性格を呈するため、治療標的が絞りにくくなることが挙げられる。こうしたがんの“組織多様性”の形成には、がん周囲環境からのシグナルによって調節される可塑的なエピゲノムが深く関与していると推測されるが、その詳細な分子機構についてはほとんど解明されていない。本年度は下記の研究を行った。1) 細胞外シグナルにより制御されるエピゲノム関連タンパクの翻訳後修飾(化学修飾)、2) 翻訳後修飾によるエピゲノム修飾酵素の生物学的活性の調節、3) 非翻訳RNAによるエピゲノム修飾タンパク複合体の特定遺伝子部位へのリクルート、に焦点を絞り、がんの形質変化に関わる、特異的なエピゲノム修飾の分子機構の解明を試みる。さらに、4) その分子基盤を標的としたエピゲノムの人為的制御について研究を行ってきた。1),2)については、メチル化酵素の核移行シグナルの同定。さらにその配列を認識するタンパク質の一つを同定した。3), 4)については非翻訳RNA、TUG1と結合するタンパク質の解析、およびTUG1を標的としたアンチセンスオリゴの有用性、その投与によるin vivo解析を行った。また腫瘍発生MADMマウスモデル (Mosaic Analysis with Double Markers, MADM)の構築を終了し解析を開始した結果、本マウスモデルではヒストンH3K27メチル化が前がん状態から継時的に蓄積することを見出した。さらにH3K27メチル化酵素のノックアウトにより腫瘍形成が抑制されることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、外部シグナルによる脳がん幹細胞のエピゲノム制御機構の解明を目指して、1) 細胞外シグナルにより制御されるエピゲノム関連タンパクの翻訳後修飾(化学修飾)、2) 翻訳後修飾によるエピゲノム修飾酵素の生物学的活性の調節、3) 非翻訳RNAによるエピゲノム修飾タンパク複合体の特定遺伝子部位へのリクルート、4) その分子基盤を標的としたエピゲノムの人為的制御について研究を行っている。1)、2)についてはメチル化酵素が細胞核に移動する機序について明らかにしつつある。また核移行に関わるタンパク質の一部を同定した。さらに3) 非翻訳RNAによるエピゲノム修飾タンパク複合体の特定遺伝子部位へのリクルートについての実験は終了し、さらにTUG1に対する治療法の開発まで進んでいる。またMADMマウスの作製を終了し、エピゲノムの人為的制御について解析を開始している。このように現在までに研究目標に対してほぼ予定どおり進んでいる。
平成27年度までほぼ予定通り研究は進展している。最終年度は、以下の課題について研究を実施し論文報告の作成を目指す。まずメチル化酵素核移行メカニズムに関わる機序の解明を行う。核輸送タンパク質としてインポーチンとその結合タンパク質についてsiRNAを用いて必須のタンパク質を同定する。またメチル化酵素の細胞内で切断に関わるキナーゼを検索するために、樹立したGFP-HMT-RFPベクターをがん幹細胞やがん細胞に導入し、蛍光顕微鏡によりTruncated typeの有無を解析可能な系(検出系)を用いてヒトキナーゼsiRNAライブラリーにより解析する。さらに膠芽腫のエピゲノムの人為的制御、さらに新規治療法の開発を目指し、H3K27メチル化酵素阻害剤による抗腫瘍効果について解析を行う。
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