研究課題/領域番号 |
25290049
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
高橋 真美 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (90214973)
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研究分担者 |
武藤 倫弘 独立行政法人国立がん研究センター, がん予防・検診研究センター, 室長 (30392335)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メラノコルチン受容体 / 膵臓がん / 大腸がん / がん予防 / アグーチ |
研究実績の概要 |
Ayアレルによる発がん促進のメカニズムの一つとして、マクロファージコロニー刺激因子CSF1発現上昇によるマクロファージ活性化の関与が示唆された。Ptf1a-KrasG12Dマウス由来の膵臓がん細胞株にAgoutiをcDNA発現ベクター導入により高発現させると、肥満の脂肪組織で発現が高いことが知られている遺伝子Xの発現が上昇し、一方、Ptf1a-KrasG12D-Ayマウス由来膵臓がん細胞株をMCRの下流を活性化するcAMP刺激剤で処理すると、遺伝子Xの発現が抑制された。興味深いことに、遺伝子Xの転写産物はCSF1の発現を顕著に上昇させた。これらの結果より、アグーチ高発現がMCRの活性化を抑えることにより遺伝子Xの発現が上昇し、遺伝子X産物がCSF1の発現を上昇させることが示唆された。 20種類のヒト大腸がん細胞株および、ヒト正常大腸上皮細胞のmRNAを用い、MCRの発現量を相対的に比較した。その結果、MC4Rは、正常細胞を含むほとんどの細胞で発現が低かったが、DLD-1細胞のみ突出して発現量が高く、大腸発がんにおけるメラノコルチン受容体経路の関与に関する研究を進めるに適した細胞はDLD-1細胞であることが分かった。次に、CMVプロモーターの下流でHuman agouti signaling protein(ASIP)を発現させるプラスミドベクターをDLD-1細胞に導入した。恒常的にASIPを発現するDLD-1細胞を得た後、mockを導入した細胞を比較すると、ASIP の強発現によりinducible nitric oxide(iNOS) およびcyclooxygenase-2(COX-2)の発現が上昇した。現在、ASIP発現DLD-1細胞のサブクローンを選別しており、ASIP発現量の異なるサブクローン株もメカニズム解析実験に用いる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ASIP強発現細胞を用いたAgouti/AgRP-MCR経路解明はおおむね順調に進んでいる。一方、MCRのアゴニスト、アンタゴニストに関する検討は予定より遅れている。ペプチドタイプの試薬が多いために安定性等の問題があり、また、濃度によって複数の受容体サブタイプに作用することもあり、条件検討中である。遺伝子発現や細胞増殖への明らかな影響を示すものは今のところ見つかっていない。その代わりとして、cAMPの刺激剤を用いて、MCRの下流経路の遺伝子発現への影響について検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
MCR経路に制御されていることがわかった因子について、その因子が発がん促進に寄与しているかどうかを明らかにするため、それらの因子をノックダウンした細胞株をマウスに移植し、腫瘍の増殖に対する影響を検討する。さらに、Agoutiの発現抑制やMCRの活性化によってそれらの因子を抑えることにより発がんや浸潤・転移を抑制できるかどうかを検証し、がん予防のターゲットとしての有用性を示すことを目指す。今のところ有用なMCRアゴニストが得られていないため、cAMPの刺激剤や抗高脂血症剤、糖尿病薬等によるMCR経路下流への影響を検討し、がん予防剤の候補とする予定である。 平成27年度は、ASIP発現DLD-1細胞を用いた炎症性因子との関連をさらに検討する。具体的にはcAMPの刺激剤による抑制因子とASIP強発現による変動因子を発現アレイにより解析し、シグナル経路をより詳細に明らかにしていく予定である。 平成27年度からは実際の動物大腸発がん系を用いて上記検討により得られた結果を検証していく。cAMPの刺激剤のin vitroにおける予備検討の結果をふまえて、発がん予防効果の検討及びメカニズム解明を行なう予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者と分担研究者は、それぞれ膵臓と大腸の動物モデルを用いた検討を行っているが、両モデルで共通して発現変化が見られた因子が見つかったので、抗体等、共通して使用出来るものは共用にしたことで消耗品経費が節約できたため。また、培養細胞を用いた解析がやや遅れ、予定より支出が少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題では、最終的にはMCRのアゴニスト/アンタゴニスト又はMCR経路に影響を及ぼす薬剤を用い、動物実験において発がんへの影響を検討することを目指しているが、動物・試薬の購入費用や人件費にかなりの費用が必要となることから、これらの研究計画の完遂のために繰り越し分を充てる計画である。
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