研究課題/領域番号 |
25290053
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
関戸 好孝 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 副所長 兼 部長 (00311712)
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研究分担者 |
村上 優子 (渡並 優子) 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 主任研究員 (70405174)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 癌 / 腫瘍抑制遺伝子 / ゲノム / 悪性中皮腫 / 合成致死 |
研究概要 |
脱ユビキチン酵素をコードする腫瘍抑制遺伝子BAP1は悪性中皮腫症例の約25%に不活性化変異が検出される。BAP1蛋白の機能はヒストン修飾による標的遺伝子の転写制御やDNA損傷(2重鎖切断)時の修復における役割が想定されているが、中皮腫におけるBAP1機能の実態は未だ明らかではない。本年度は中皮腫細胞株を用い、BAP1と合成致死(一方の遺伝子の不活性化では細胞は生存するが、両方の遺伝子が不活性化した場合、細胞死が誘導されること)の表現型を見いだすための実験の準備を進めた。細胞株はBAP1変異中皮腫細胞株2株、野生株4株および不死化正常中皮細胞株(MeT-5A)を用いた。 最初に、BAP1遺伝子の発現ベクターを構築した。BAP1野生型細胞株よりRNAを抽出しcDNAを合成後、PCRにて増幅し全長のBAP1cDNAを得た。その後、Gateway Technology BP reaction/LR reaction システムを用いBAP1発現プラスミドを作成し、293T細胞(ウイルスを大量産生する細胞)に感染させた後、培養上清よりウイルスを回収した。一方、BAP1をノックダウン(遺伝子発現を低下)する系に関してもRNA干渉法による4種類のshRNAレンチウイルスを大量培養した。作成した強制発現ウイルスおよびノックダウンウイルスがそれぞれBAP1を高発現および発現低下させることを確認した。 一方、BAP1との合成致死を生じる可能性のある分子およびパスウェイについてin silicoにて検討を開始した。公開されている悪性中皮腫患者の発現アレイのデータおよび予後データを検討し、候補遺伝子の抽出の参考にした。その結果、Tubulin (Nocodazole)、Pyrubate kinase (Shikonin),PARP (MC2050,アミノベンズアミド)(括弧内は阻害剤)が候補として抽出され、BAP1野生型および変異型の細胞株に対してin vitro培養系で検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は3年間の計画であり、初年度はおおむね順調に進行したと考えられる。悪性中皮腫の原因遺伝子として現在、最も注目を集めているBAP1腫瘍遺伝子に焦点を定め研究を進めた。第一に、BAP1の強制発現系およびノックダウン系の両アッセイシステムを確立することができた。BAP1発現レンチウイルスをBAP1のホモザイガス欠失中皮腫細胞株に感染させて検討した結果、極めて高い発現レベルのBAP1蛋白を検出することができた。一方、shRNAウイルスをBAP1野生型細胞株に感染させたところ、BAP1の発現が極めて低く抑えられていることが確認できた。このように、in vitro解析の基盤整備が整ったものと考えられる。 第二に、BAP1と合成致死を示す可能性のある候補分子・パスウェイをin silicoの解析(バイオインフォマティクスなど、コンピュータを用いた解析)によって抽出し、それらの分子に対する各種阻害剤の検討を開始することもできた。これらの阻害剤の内、合成致死の表現型を示す薬剤が見つかれば、研究計画はさらに迅速に進むものと考えられる。 一方、悪性中皮腫の発現アレイ解析および患者予後データに関する報告は他のがん種に比べて少なく、既存の各種オープンデータベースから他に利用可能な中皮腫に関する遺伝子変異・発現および臨床情報も限られている。そのため、他のがん種で広く行われているin silicoでの解析は、中皮腫研究ではなかなか活用が難しく、本研究課題の推進にとってはややディスアドバンテッジとなっているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、レンチウイルスshRNAライブラリーをBAP1遺伝子の欠失細胞株およびコントロールとして野生型細胞株に感染させてスクリーニングを開始する。Open Biosystems社のDecode RNAi viral screening library (negative selection kit)を使用し、1次、2次スクリーニングと進め、BAP1と合成致死をきたす候補遺伝子を抽出し、解析のための分類・順位付けを行う。絞り込まれた遺伝子に対して、個別にshRNAによるノックダウンや阻害剤等による確認実験を行う。一方、脱ユビキチン化酵素であるBAP1が機能的に働くと考えられているヒストン修飾機構、遺伝子転写調節機構、DNA損傷修飾機構、クロマチンリモデリングなどのパスウェイに着目し、すでに有用な阻害薬がある場合にはそれぞれに対する阻害薬あるいはshRNAを用いた実験も同時に遂行する。その両アプローチによりBAP1と合成致死の表現型を示す遺伝子を同定する。 一方、BAP1の機能的な解析研究や他のがん種(眼ブドウ膜メラノーマや腎がん)は、最近、メジャージャーナルへの論文掲載数が増加しており、BAP1遺伝子に関する基礎的・臨床的知見は急速に深まりつつある。BAP1が放射線障害等によるDNA損傷における相同組換えに対して機能することや、BAP1自身が脱ユビキチン化されることにより細胞核内に留まる一方、ユビキチン化によって細胞質に留まり不活性化されることが報告されるなど、非常に興味深い知見が集積されつつある。これら報告された知見を、中皮腫細胞においても同様な現象が認められるか否かについても再検証を同時進行で進め、有用な結果が得られた場合には本研究計画の推進に行かせるよう絶えず検証を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度の後半にRNAiスクリーニングを開始する予定であったが、その実験が若干遅れたため、必要とされる消耗品を購入する必要がなかった。 RNAiスクリーニングを開始した場合、必要となる試薬、プラスチック器具等を購入する予定である。
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