脱ユビキチン化酵素をコードする腫瘍抑制遺伝子BAP1は悪性中皮腫症例の約25%に不活化変異が検出される。BAP1蛋白の機能はヒストン修飾による標的遺伝子の転写制御やDNA損傷(2重鎖切断)時の修復のおける役割が想定されているが、中皮腫におけるBAP1機能の実態は未だ明らかではない。昨年度に引き続き、中皮腫細胞株を用い、BAP1と合成致死の表現型を見いだすための実験を進めた。細胞株はBAP1変異中皮腫細胞株H28に野生型BAP1を過剰発現した細胞株及びコントロール株としてH28にVenusを過剰発現した細胞株を用いた。 ゲノムワイドなレンチウイルスshRNAライブラリーをBAP1過剰発現細胞株およびコントロール細胞株に感染させ、スクリーニングを行った。培養後、両細胞株よりゲノムDNAを抽出し、ゲノムにインテグレイトされたshRNAの配列を次世代シークエンサーにより同定した。コントロール細胞株ではshRNAが存在するものの、BAP1過剰発現細胞株ではインテグレイトされたshRNAコピー数の少ない遺伝子1074個を抽出した。同時に、BAP1変異と悪性中皮腫患者予後に関係のある遺伝子群を既存のデータベースより616個抽出し、両者を比較することにより最終的な候補遺伝子、約200個を決定した。 これらの200個の遺伝子産物の発現レベルの検討やパスウェイ解析から、BAP1変異と合成致死を示す可能性のある有力な候補遺伝子を順次検討した。DNA複製やDNA損傷修復、さらにはオートファジーに関わる遺伝子群が有力候補と考えられた。特にオートファジーに関わる遺伝子Xについては特異的な阻害剤がavailableであったため、それを投与したところ、BAP1欠損細胞株では著しい腫瘍抑制効果が認められた。 以上の結果は、悪性中皮腫において高頻度に変異を示すBAP1において合成致死を示す遺伝子の同定が可能であり、遺伝子ノックダウンあるいは特異的阻害剤による悪性中皮腫細胞の選択的な治療が行えることを強く示唆した。
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