研究課題
基盤研究(B)
分子標的薬の登場でがん治療は画期的に進歩した。その反面、分子標的薬の感受性の人による違いや耐性化が問題となっており、その有効性や耐性化マーカーが必要である。現在、単一の遺伝子発現や変異での薬効予測が行われているが、それだけでは不十分であり、新規バイオマーカーの開発が急務である。本研究では、(1)質量分析計を用いて、細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質を網羅的に定量するシステムを構築し、細胞内シグナルの活性化状態の全体像をリアルタイムに定量する系を確立する。(2)その測定系を用い、種々の分子標的薬の薬効予測・耐性化のモニタリングに応用する。リン酸化シグナル定量系による薬効予測モニタリングは世界初の試みであり、これが臨床応用されれば、より適切な治療法の選択が可能となり、がん治療の質の向上のみならず医療費の削減に貢献できる。平成25年度は、種々のがん培養細胞を用い、細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質およびそのリン酸化サイトを網羅的に同定した。その結果、1回の実験で30,000リン酸化ペプチドの定量に成功した。また、そのMS情報を収集してデータベースを作成した。また、臨床検体を用いて上記のリン酸化タンパク質の解析を行うために、千葉大学附属病院、がん研有明病院から種々の消化器がん症例原発巣および転移巣約30症例の新鮮手術組織検体の収集を行った。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画1.細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化ペプチドの同定とそのデータベース作製に関しては、培養細胞系を用いたリン酸化ペプチドの網羅的同定を行い、約30,000種類のリン酸化サイトを同定し、データベース化した。計画2.正確な臨床情報が付加された「高品質な」検体の収集と保存に関しては、千葉大学附属病院、がん研有明病院から種々の消化器がん症例原発巣および転移巣約30症例の新鮮手術組織検体の収集を終えている。
1.SRM/MRMを用いた細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質の定量法の確立リン酸化ペプチドの定量法を確立する。最近、抗体を用いずに、質量分析計を用いた定量法(SRM/MRM)が開発され、特に抗体作製が難しいリン酸化タンパク質の発現解析に威力を発揮する。SRM/MRMは、特定の質量の親イオンを選択的に破壊し、生成した娘イオンの中のさらに特定イオンのみを検出するため、複雑なサンプル内から標的とするタンパク質由来のペプチドを高感度に検出することができる。SRM/MRMの最大の強みは抗体でしばしばみられる非特異的反応を回避できることである。また、SRM/MRMはどんなタンパク質・ペプチドでも定量が可能で、一度に百種類以上のターゲットペプチドが定量できるため、抗体を用いたウエスタンブロットやELISAに比べて、多項目の定量に適している。2.阻害剤による細胞内シグナル伝達に関わるリン酸化タンパク質の定量解析上述のSRM/MRMを用いたリン酸化シグナルタンパク質の大規模定量法を用い、種々の阻害剤がどのようなシグナルパスウェイを抑制するかをin vitroの実験系で調べる。種々のがん培養細胞を阻害剤(EGFR阻害剤、TGFβ阻害剤、HER2阻害剤等)で処理後、シグナル伝達に関わるリン酸化ペプチドをSRM/MRMを用いて定量する。例えば、EGFR阻害剤は大腸がん治療の分子標的薬として用いられているので、EGFR阻害剤に感受性のある大腸がん培養細胞をEGFR阻害剤で処理後、リン酸化ペプチドの定量を行い、どのような分子が変動するか調べる。
コンパニオン診断薬開発研究のために、当初3月中旬に納品される予定であった抗体等の納品が下旬にずれ込み、支払い事務手続きが平成25年度内に完了しなかった。このため、コンパニオン診断薬開発研究に若干の遅れが生じたが、研究遂行上の支障は生じていない。また同研究を進めるために試薬を合わせて購入する予定であったが、上記の遅延に対応するため4月に購入することとした。研究を遂行する実験補助員の人件費と、細胞培養に必要な、培養液や血清、リン酸化プロテオミクス解析に必要な試薬、SRM/MRM解析に必要な安定同位体標識ペプチド等の消耗品の購入に充てる予定。
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