研究課題
基盤研究(B)
本研究の目的は、動物が生成する『行動』が脳内のエピジェネティクス動態にいかに関わり、その後の遺伝子発現を介して個体の行動発達にどのような影響を与えるのか実験的に検証することを目指し研究を進めている。当該年度における研究の成果として以下の2点を報告する。(1)発声学習臨界期時期特異的に遺伝子発現が変化する神経細胞の同定: 今回、神経興奮依存的に発現誘導されるArc・Egr1・c-fosを分子マーカーとして用いて、発声学習臨界期時期を前後に分け、さらにサンプリング・タイミングを午前と午後として計4条件下での発声行動パターン変化と発現誘導率が強く相関する脳部位・神経細胞タイプの詳細な再検討を行った。その結果、神経核RA・NIfにおけるグルタミン酸作動性投射ニューロン特異的に音響特性変化度に相関した遺伝子発現誘導制御がなされていることが明らかになった。(2) アデノ随伴ウイルスによるエピジェネティクス制御因子の過剰発現系の構築: アデノ随伴ウイルス(Adeno-associate virus: AAV)によるエピジェネティクス制御因子であるGadd45b (DNA demethylation factor)とHistone H3.3 (mitosis independent replacement histone)の過剰発現を可能にするウイルス系を構築した。このGadd45bおよびHistone H3.3は発声学習臨界期に発声行動によって遺伝子発現が誘導される「時期特異的かつ神経興奮依存的な」遺伝子として、我々の研究室で独自に同定した遺伝子である。平成25年度ではP2Aシステムを導入し、発現マーカー遺伝子GFPと分離した独立タンパク質として細胞内での発現を可能とさせた。これによって、タンパク質立体構造や複合体形成障害等の問題を低減でき、Gadd45bおよびHistone H3.3がもつ神経細胞における分子機能を明らかにすることができる。
2: おおむね順調に進展している
当初より予定していた初年度の実験を予定通りに遂行できている。
平成26年度においては、以下の2点を中心に研究を推進していく。(1) 脳内エピジェネティクス状態の長期的改変を可能にする薬理学的・行動学的方法の確立:侵襲性が低くかつ、学習臨界期を十分にカバーするために2カ月以上にわたるエピジェネティクス試薬の連続投与を可能にする方法を確立する。また、学習臨界期中の発声行動量を人為的にコントロールすることで神経活動依存的なエピジェネティクス状態変化を改変する行動学的方法の確立を目指す。(2) エピジェネティクス制御因子の過剰発現系による発声学習およびその発達変化の行動学的検証の開始:平成25年度に構築・作成したエピジェネティクス制御因子の過剰発現を可能にするAAVウイルスを用いた発声学習およびその発達変化の行動学的実験を開始する。エピジェネティクス制御因子の過剰発現は、(i)学習臨界期開始時から継続発現させ恒常的に若鳥時のエピジェネティクス状態を誘導させる個体、(ii)学習臨界期の終了時から発現誘導を行い、一度発声パターンを学習し終えた成鳥から若鳥時のエピジェネティクス状態を再誘導させる個体、の2条件の動物個体を作成し、その発声学習およびその発達変化の行動学的実験を開始する。
今年度の研究進捗が十分に確保できたため、不必要な物品発注を控えた。5月中までに使用を終える予定。
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