本研究の目的は、動物が生成する『行動』が脳内のエピジェネティクス動態にいかに関わり、その後の遺伝子発現を介して個体の行動発達にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。そのために、本研究では、音声発声学習能とその学習臨界期をもつ鳴禽類ソングバードを動物モデルと用い、次の2点にフォーカスした研究を進めてきた。(I) 音声発声学習臨界期間特異的なエピジェネティクス動態変化を受ける遺伝子群の存在をRNA-seqによりゲノムワイドに明らかにする。(II)ウイルス発現系実験や薬剤投与により、 人為的に脳内エピジェネティクス状態の改変により音声発声学習における学習効率・学習戦略・学習臨界期間制御といった個体レベルの行動表現型への影響の有無を検証する。H28年度においては、上記の(II)人為的に脳内エピジェネティクス状態の改変により音声発声学習における学習効率・学習戦略・学習臨界期間制御といった個体レベルの行動表現型への影響の有無を検証する実験を行なった。そのためにヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるSAHAの発声学習臨界期における連続投与によって、正常発達個体と比べ、音素の繰り返し配列をより多く生成するような発声パターン異常が確認された。この結果は、種特異的な学習拘束性の発達に脳内エピジェネティクス修飾制御が関わっており、発声学習臨界期制御との関連性を新たに示唆する。また、アデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子発現実験も継続して進めている。
|