研究課題/領域番号 |
25290067
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
日下部 岳広 甲南大学, 理工学部, 教授 (40280862)
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研究分担者 |
鈴木 穣 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (40323646)
中井 謙太 東京大学, 医科学研究所, 教授 (60217643)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ホヤ / メダカ / 転写調節 / 神経系 / 発生・分化 / 小分子RNA |
研究実績の概要 |
ホヤゲノム上の転写開始点の網羅的なマッピングの解析結果をまとめ、論文を投稿した。ホヤ特有のトランススプライシングにより転写開始点がわからなかった多くの遺伝子について、転写開始点を同定し、トランススプライシングにより除去される「アウトロン配列」を同定することに成功した。ホヤ中枢神経系の発生に関わる転写因子およびシグナル分子について、発現細胞の同定と追跡を、光変換により蛍光波長が変化する蛍光タンパク質Kaedeを用いて行い、中枢神経系を構成する細胞がこれまで知られていた以上に多様な集団であること、脊椎動物の脳とさまざまな点で共通性がみられることを明らかにした。メダカおよびホヤの視細胞で特異的に発現する遺伝子群について、転写制御領域の比較ゲノム解析と保存モチーフ検索を行い、シス調節配列および転写制御因子を推定した。また視細胞の遺伝子発現制御に関わる2種類のマイクロRNAについて、CRISPR-Cas9法によるノックアウトを行い、それぞれのマイクロRNAの一部を欠損した個体が得られた。また比較ゲノム解析と蛍光レポーターを用いたイン・ビボ実験によって見出された視細胞特異的なシス調節モジュールをCRISPR-Cas9法を用いて欠損させた個体を作製した。前年度までに、神経系における新たな細胞分化制御因子として、Piwiタンパク質をみいだした。Piwiに対する特異的抗体を作製し、転写産物レベルに加え、タンパク質レベルでもホヤ幼生の中枢神経系、とくに脳の特定の細胞群に局在することを明らかにした。中枢神経系の本来Piwiが発現しない細胞でPiwiを異所的に強制発現させたところ、神経細胞分化が抑制され、Piwiが中枢神経系において分化制御に関わることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ホヤゲノムの転写開始点マッピングが完了し、神経発生に重要な遺伝子および細胞型特異的遺伝子について詳細なシス調節配列の機能解析が進んだ点、およびCRISPR-Cas9法によるゲノム編集技術を駆使した制御因子の機能解析が順調に進んでいる点は、大きな進歩であり評価できる。一方、ChIP-Seqに関して、試料調製に時間がかかっており、最終的なデータ取得に至っていない点から、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下の項目を中心に研究を推進する予定である。 1.ChIP-Seq法によるゲノム中の転写因子結合部位の同定:転写因子にタグをつけた融合タンパク質を胚に過剰発現させ、タグ配列に対する抗体を用いる方法に加え、内在性の転写因子を認識する抗体を新たに作製して用いる。 2.細胞の個性獲得制御に関わる細胞間シグナル、小分子RNA、RNA結合因子、転写因子等の機能解析:ノックダウン実験に加え、CRISPR-Cas9法によるノックアウト、薬剤による機能阻害、野生型および変異体の強制発現などの実験を行い、表現型を解析する。 3.標的遺伝子の推定と実験検証:(1)ChIP-Seq解析結果と転写開始点の情報をもとに、転写因子の標的遺伝子を推測、イン・ビボ実験により検証する。(2)結合領域のDNA配列の情報解析により、協調して作用する転写因子群を推測する。(3)胚にDNAコンストラクトを導入して蛍光レポーターの発現を調べることで、転写調節領域の機能解析・シス配列候補の実験検証を行う。 4.細胞の個性獲得機構に関するモデルの構築と実験による検証:これまでに得られた結果に基づいて、各細胞の個性獲得機構に関するゲノム情報発現制御ネットワークモデルを構築し、実験によりモデルを検証する。 5.制御機構の普遍性および進化についての解析:ホヤと脊椎動物や他のモデル無脊椎動物との比較により制御ネットワークの普遍性を調べ、細胞の個性獲得機構および神経系の進化や制御機構が進化に果たした役割について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通りに執行したが、少額(8466円)が残ったため、次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の通り、ほぼ計画通り執行しており、当初の予定通り使用する。残額は翌年度請求分と合わせて有効に活用する。
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