研究概要 |
iPS細胞は、再生医療応用に向けて応用研究が進んでいるが、いくつか解決されなければならない課題が残されている。その一つが、ゲノムの不安定性である。最近、iPS細胞には、ゲノムに多数の点突然変異が生じていることが明らかになってきた。しかし、その変異が生じる時期および原因は不明である。 今回我々は、自身でiPS細胞およびES細胞をC57BL/6マウスから樹立し、同じ条件で培養を行ったものに関して、広範囲のゲノム点突然変異解析を実施し、両者を比較することにより、iPS細胞に観察される多数の点突然変異が、リプログラミング過程を含むiPS細胞樹立過程で生じる現象であるか否かを検討した。 iPS細胞5株、ES細胞4株、そして比較対象となるそれぞれの親細胞についてイルミナHiseq2000による全ゲノムシーケンシングを行ない、single nucleotide variations (SNVs)の抽出を行なった(一部は課題開始以前のデータである)。スクリーニングには高品質配列を使用し、更に、既存のSNPsを除外するなど、偽陽性候補を除く為、いくつかのフィルタリング作業を行なった。その結果、iPS細胞にはES細胞の10倍以上のSNVsが存在し、iPS細胞ではES細胞に比べ、transversion変異が多いという質の違いを明らかにすることに成功した。更にそれらSNVsの頻度解析を行なうことにより、多くの変異が体細胞に元々存在していた変異ではない、つまり、iPS細胞樹立初期に新たに生じたことを立証した。以上の結果を、Stem Cell Reportsに報告した (Sugiura et al., 2014)。
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