研究課題/領域番号 |
25290070
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 博 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (60155158)
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研究分担者 |
田中 真二 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (30253420)
茂櫛 薫 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 非常勤講師 (60569292)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / 遺伝子ネットワーク / バイオマーカー |
研究概要 |
パスウェイ準拠治療を実現する上で最も重要なものは、言うまでもなく分子パスウェイ異常分枝の正確な認識である。例えば、肝細胞癌では血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)などの成長因子、およびこれらの下流に位置するERK/MAPKパスウェイ、PI3K/AKT/mTORパスウェイ、あるいはWntパスウェイなど、さまざまなシグナル伝達系が相互作用している。さらに、腫瘍細胞と間質細胞との相互作用(tumor microenvironment)におけるVEGFやPDGFなどの存在も重要である。本年度は、これらのパスウェイに関する生物学的知見を整理して、肝細胞癌の病態分子像を規定する「基準パスウェイ」を検討した。 肝細胞癌の基準パスウェイの雛型として、まず文献(Whittaker S. Oncogene. 2010)等を元に、特に重要な29遺伝子を抽出した。これらの遺伝子発現パターンを予後良好群 vs. 予後不良群(各n=20)で比較したところ、MAPK1やGSK3B、VEGFA、KRAS遺伝子などの発現増加、およびSHC2やTP53などの発現減少が予後と相関していた。さらに、これら29遺伝子の発現データから、遺伝子ネットワーク推定アルゴリズムであるGENIE3を用いて肝細胞癌の予後を規定するネットワークを作成した。予後良好群と予後不良群のネットワークを比較したところ、TP53・BCL2L1・BADを含むアポトーシス関連や、MTORからAKT1に連なるmTOR系などが共通していた。一方、予後不良群ではEGFRやMAPK1などの系において特徴的なネットワークが見られた。今後、これらの遺伝子のタンパク質発現およびリン酸化特異的抗体を用いた検討を進め、パスウェイマーカーとしての機能の評価を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基準パスウェイを用いた評価はほぼ完了した。ほかにも細胞周期関連遺伝子を用いた解析を進めており、予後不良群に特徴的なAURKBやCDC20を中心としたネットワークについても検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1. パスウェイ・バイオマーカの探索 平成25年度に引き続き、パスウェイの構築および候補パスウェイマーカーの絞り込みを行う。パスウェイ上にあるタンパク質に関連する論文を定期的にレビューし、確度の高い新規な知見についてはリファレンスパスウェイに適宜取り込んでいく。それに伴い、拡張パスウェイも更新し、差分についての検討を随時行う。 2. 候補パスウェイマーカーのバリデーション 臨床検体を用いて候補タンパク質のリン酸化特異的抗体によるウェスタンブロットを行うことにより、シグナル伝達経路の活性度をを評価して少数のパスウェイバイオマーカとの精度の比較をする。ウェスタンブロットにより有用な候補パスウェイマーカが得られた時点で、独立症例を用いたバリデーションを開始する。バリデーションには、より臨床応用に近い手法である、免疫染色法を用いる。免疫染色は組織を直接観察するため、タンパク質の局在や癌組織における発現の不均一性も確認することができる。また、候補パスウェイマーカもしくはその断片が血液中を循環していたり、血中循環がん細胞(circulating tumor cell)に含まれる可能性が高ければ、採血によるマーカーとして有効な可能性もあるため、末梢血での発現量も併せて解析する。さらに、複数の因子との組み合わせ探索により、マルチマーカーとしての有効性の検討も行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次世代シーケンシング解析を行う検体の選定に、H25年度で得られた研究成果を反映させるため、解析の外注を延期した。 H26年度にて次世代シーケンシング解析を行う予定である。
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