研究課題
基盤研究(B)
細胞集団の1細胞ずつの性格を明らかにし、真の細胞状態を把握することは生物学の研究にとって非常に重要である。本研究ではDNA/RNA hybrid oligo(dT)BeadsとDNA/RNA hybrid primerを用いた微量/1細胞トランスクリプトーム解析法の開発とそれを用いたがん幹細胞と免疫細胞の細胞集団の階層性を明らかにし、真の細胞状態を把握することで将来的に臨床研究に役立てることを目的とする。本年度は、方法の精度向上に取り組んだ。まず、DNA/RNA hybrid primer の配列と長さについて検討し、増幅率の増加、また、tubeのシリコンコーティング並びに液量を半分にすることでRNAの回収率の改善が見られた。次に大腸癌細胞株, HT29を対象にHoechst 33342 dyeの取り込みにて、side population(SP)とmain population(MP)を分離後、単一細胞トランスクリプトーム解析を行った。16細胞ずつの解析でいくつかの遺伝子でSP特異的発現が観察された。その中で特にIL-8はSPでは16細胞中5細胞で発現が確認されたが、MP細胞では発現している細胞はなかった。さらにspherical colony formationと造腫瘍性を確認したSPとMPでバルク細胞(10,000細胞以上)でのこの遺伝子についての遺伝子発現解析をSAGE法とDNAアレイ法で行い比較したところ、単一細胞トランスクリプトームの結果と一致してSPで発現量が高かった。タンパク発現についても免疫染色で確認されたことから、がん幹細胞分画であるSPでIL-8が高発現していることが確認された。今後、さらに表面抗原についても解析する予定ある。
3: やや遅れている
NA/RNA hybrid oligo(dT)BeadsとDNA/RNA hybrid primerを用いた微量/1細胞トランスクリプトーム解析法の開発については感度の改良が進んでいる。しかし、実験の再現性がまれに安定しないことがあり、機材、RNaseの混入等、試薬の管理による可能性が考えられた。これらを改善すると共にさらにDNA/RNA hybrid primerの配列特異性を検討することで高感度で安定した解析が出来ると考えている。これら解析のベースが遅れることですべての解析が遅れることからアッセイに非常に注意が必要である。がん幹細胞の解析においては順調に解析が進んでおり、さらに細胞数、細胞種を増やして行う予定である。ただ、SP特異的遺伝子の中で表面抗原の特定が遅れているので、いくつかの方法を用いて確認する予定である。一方、免疫細胞に関しては、解析が出来ていない。バイオインフォマティックス、クラスタリングに関しては解析した細胞数が少ないことから、解析に至っていない。
今後の研究では、引き続き、単一細胞トランスクリプトームの精度の向上に努める。一方、単一細胞トランスクリプトーム法では1つ1つの細胞のコンストラクトを作製するものであるが、新たにバーコード化されたビーズに1細胞由来のmRNAを結合させる技術を開発し、複数の単一細胞を解析する新たな方法を検討する。この方法は前法を含み、これが出来れば前の方法を使用する必要がなくなると考えられる。前年度に引き続きがん幹細胞の単細胞トランスクリプトーム解析を行う。得られた結果を基にしてクラスタリング解析し、各細胞集団を同定するとともに遺伝子発現解析で得られた情報から特異的/選択的に発現するマーカーとして使用出来る表面抗原を選定する。もし、その分子の抗体が入手可能であれば、それを基に再び細胞株をソーティングする。入手出来なければペプチド合成をして抗体を作製する。ソーティングした細胞をspherical colony formationで調べると共に、がん幹細胞の造腫瘍性はNOD/SCIDマウスへ移植して検定する。がん幹細胞が特定出来ると予想される分子並びに抗体が見つかれば、それを用いてマウス移植実験にて抗体治療を行う。ここまで細胞株による検証と動物実験であるが、次に臨床サンプルで実験を行う。さらに、抗原刺激した免疫細胞が分化の過程でどのよう変化して行くか単細胞トランスクリプトーム解析を行いクラスタリング解析する。得られた結果を基に細胞の階層性ならびに分化メカニズムを明らかにする。応用として癌免疫治療におけるモニタリングにおいて単細胞トランスクリプトームを行い細胞の変化と効果を検証する。
解析法の条件検討に時間がかかったこと、細胞のアッセイ量が少なかったため次年度の使用が生じた。細胞の単離及び細胞のアッセイに使用する予定である。また、新たな方法に要するプレート、試薬等に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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