前年度までに、ペプチド核酸(PNA)のN-末端にトラン化合物を導入すると、その相補配列を含む標的鎖と1塩基ミスマッチを含む標的鎖に対する配列選択性が向上することを明らかにした。また、トラン分子とPNAの間のリンカーの長さを最適化したり、トラン分子の芳香環を適度に拡張をすると、標的鎖中の1塩基ミスマッチをより高選択的に識別できることを見出した。
本年度には、このトラン修飾型PNAを用いて、DNAおよびRNAに対する会合挙動を調べたところ、DNAに対しては相補鎖との会合能を高め、RNAに対しては相補鎖との会合能を高めるだけでなく、1塩基ミスマッチを含む非相補鎖への会合能を不安定化することで、1塩基ミスマッチ識別能を飛躍的に向上することが分かった。PNAへのトラン修飾が標的DNAとの会合にどのような影響を与えるかを考察する為、PNA/DNAの会合挙動を熱力学的パラメーターより解析したところ、トランがPNA/DNA二重鎖の隣接塩基とスタッキングし、相補鎖を積極的に安定化することが明らかにした。
インフルエンザウイルスの治療薬であるタミフルが標的とするウイルスの酵素=ノイラミニダーゼは、遺伝子の一塩基変異で薬剤耐性を獲得する。そこで、トラン修飾PNAのノイラミニダーゼの1塩基の遺伝子変異部位を含むRNA配列に対する会合能を調べたところ、相補鎖/非相補鎖に対する会合体の安定性差が約24℃になり、トラン未修飾PNAの約11℃に対して圧倒的に向上することがあきらかとなった。今後は、本技術をもとに、インフルエンザウイルスのタミフル耐性をその場で検出できる新規核酸ツールを開発することを目指す。
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