研究課題/領域番号 |
25290074
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
細田 文恵 独立行政法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (30219191)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 胃癌 / トランスクリプトーム / 融合遺伝子 / 発現異常 / 分子標的治療 |
研究概要 |
国立がん研究センターバイオバンクから予後不良進行胃癌、悪性度の高い未分化型胃癌の凍結保存検体190症例を収集した。一定以上のRNA品質(RIN>5)を有するトータルRNAを150症例分得た。うち80症例サンプルについてイルミナ社TruSeq RNA Sample Prep Kitを使用して、インサートサイズ250-300 bpのRNAシークエンスライブラリを調製した。 本年度は53症例について、イルミナ社シークエンサーHiSeq2000を用いて100 bpショートリードのペアエンドRNAシークエンスを決定した。得られたシークエンスデータの情報解析を行ない、mRNAおよび長鎖(polyA+)ncRNAを解析対象として融合遺伝子の検出を行った。当初計画では32サンプルの解析を目標としており、計画を上回る実績を挙げることができた。 リード数4以上で読み取られたRNA配列からマッピングに異常を示し、構造異常が疑われるRNA分子の候補を抽出し、さらにin-frame融合あるいはpromoter swapping融合を形成すると予測される分子を選択した。融合遺伝子の存在確認はRT-PCR法により実施した。53症例中28症例においてmRNA融合分子56個(recurrentなし)とncRNA関連融合11個(4個のrecurrentを含む)を同定した。融合遺伝子のタンパク質構造解析予測(機能ドメインを含むかどうか等)の他に、既知癌遺伝子のゲノムコピー数異常とKRAS, BRAF遺伝子変異解析の結果を考慮して、発癌に関係するのではないかと考えられる候補遺伝子を推測した。頻度は低いものの、難治胃癌の治療標的分子となり得るキナーゼ遺伝子の融合体も見つかってきており、順次機能解析を進めている。 今回RNAシークエンスを読み取った約半数の25症例においては発現が確認された融合遺伝子はなかった。この群の中には非充実性癌が7割含まれているが、腫瘍含量が低いために異常を検出できなかったのか、本当に融合遺伝子を形成するようなゲノム異常が存在しないのかについてはまだ十分検討できていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では難治胃癌200症例を目標に収集する、としたが、本年度は凍結検体190症例から、RNAシークエンス解析に使える品質のRNAを150症例分準備した。40症例についてはRNA品質が悪く、シークエンスライブラリ作製には不適当であった。不足分については、次年度以降に症例を収集する予定である。 しかしながら、RNAシークエンスのランと情報解析は、本年度目標数32を大幅に上回る、53サンプルについて遂行することができた。また、胃癌の治療標的分子となり得るキナーゼ関連の融合遺伝子など複数分子を同定することができた。したがって、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、2年目は融合遺伝子の異常が見つからないサンプルを用いて低分子RNAシークエンスの解析を行なうとしたが、初年度の解析結果を見て方針を変更する。つまり、頻度は低いものの、約半数の難治胃癌にmRNAや長鎖(polyA+)ncRNAの構造異常が見つかったことから、本研究計画2年目においては、準備した150症例(さらに2年目に追加する症例分も)のRNAサンプルをすべてシークエンス解析に回すことを目標とする。 腫瘍含量の低い非充実性癌の取扱いについては当初からの懸念事項であったが、初年度のシークエンス解析結果から、必ずしも非充実性癌すべてで構造異常の検出効率が悪いわけではないことがわかった。半数の症例では有意な構造異常が確認されたことから、すべての症例をまず融合遺伝子の検出解析にかけることにしたい。 これらの症例において本当に構造異常がないのか、技術的な問題から検出できないのかの判別は難しい。その疑問に答える方法の1つはシークエンスリードの深度を上げることであるが、シークエンスランにかかる費用の問題が大きい。したがって、代わりに多検体を解析することによって、検出頻度は低くとも難治胃癌に起きているゲノム異常を幅広く検出していくことで問題点を補いたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
シークエンスライブラリ調製試薬およびシークエンスラン試薬のまとめ買い分を使用したことによって経費が節約できたため。 次年度(平成26年度)は多検体のシークエンスランを行なう計画があり、そちらの物品費(試薬等消耗品)に使用する予定である。
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