生殖細胞は次世代を生む特殊な細胞である。初期発生過程に細胞質に存在する巨大なRNA-タンパク質顆粒である「生殖顆粒」によって始原生殖細胞の特性が規定される際には、細胞質の生殖顆粒から何らかの形で情報が伝達されて核内のゲノム情報発現制御の情報に変換されているものと推測される。本研究では、小型淡水魚ゼブラフィッシュ(Danio rerio)をモデル系として用い、「生殖顆粒において特定のmRNAの翻訳制御が行われ、その結果生成する翻訳産物が核移行して転写制御因子やクロマチン制御因子として働くことにより、生殖細胞特異的なゲノム情報発現制御を担っている」との作業仮説にもとづいて始原生殖細胞決定機構の分子基盤を明らかにすることを目的に研究を行った。 ゼブラフィッシュ受精卵に、始原生殖細胞で働くdead-end (dnd) 遺伝子に対するモルフォリノ修飾アンチセンスDNA(MO)をインジェクションすることによって始原生殖細胞の形成・移動を人為的に阻害したゼブラフィッシュ胚を作成し、野生型及びMOインジェクション胚から抽出したRNAを用いてRNA-seq解析を行った。その結果、MOインジェクション胚で発現が低下する遺伝子群や、発現が上昇する遺伝子群が同定された。発現が上昇する遺伝子のなかにはnanogが含まれていた。ゼブラフィッシュnanog遺伝子は接合子型の遺伝子発現開始に必要であり、miR-430の転写活性化を介して母性プログラムの消去に働くことが示唆されていることから、DNDが生殖細胞特異的にnanogの発現抑制を行っている可能性について詳細に検討を進めている。 一方、生殖顆粒や卵形成期のミトコンドリア凝集体の形成に関与すると考えられるBucky Ball (Buc)の発現制御機構について解析を行い、胚発生過程においてbuc mRNAがマイクロRNAのmiR-430によって抑制制御を受けることを見出した。
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