研究課題/領域番号 |
25290084
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 埼玉県環境科学国際センター |
研究代表者 |
田中 仁志 埼玉県環境科学国際センター, 水環境担当, 主任研究員 (40415378)
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研究分担者 |
田中 大祐 富山大学, 理工学研究部(理学), 教授 (40360804)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 希少淡水二枚貝 / イシガイ類 / 餌資源 / 藻類 / 細菌 / PCR-DGGE / 必須脂肪酸 / クロロフィルa |
研究概要 |
淡水産二枚貝のイシガイ類は、タナゴ類の産卵母貝と知られているが、我が国では多くの種において絶滅が危惧される状況にあり、早急な保全対策が求められている。イシガイ類の保全には、餌が安定して確保される必要がある。本研究の目的はイシガイ類が利用する餌を解明し、人工養殖技術の確立に寄与することにある。 平成25年度はイシガイ類の高密度生息地である富山県氷見市内の水田地帯を流下する小河川において、餌として有望と考えられている藻類について、藻類量の指標となるクロロフィルaを調べた。その結果、クロロフィルaは水田のかんがい期(5月~8月)に大きく、非かんがい期には小さくなるという季節変動を示した。それらの変化は藻類量が大きくなる時期とイシガイ類の成長期とが重なっていることを示唆していた。また、それら同一試料の遺伝子解析(PCR-DGGE法)結果からは珪藻類、緑藻類、渦鞭毛藻類などの藻類が優占して検出されたことから、それらを餌として利用していた可能性が示された。さらに、イシガイ類の軟体部について脂肪酸分析による餌同化内容の組成を解析した。その結果、複数の生息場から採集されたイシガイ類は、いずれも緑藻・藍藻に由来する脂肪酸、次いで珪藻に由来する脂肪酸が多い傾向にあった。さらに細菌に由来する脂肪酸もすべての個体から検出され、イシガイ類は細菌も餌として同化していることが示唆された。以上のことから、従来の藻類に加え、細菌も餌候補として重要な対象であることが明らかになった。また、イシガイ類の利用餌の検証を行うために、生息地の現場において飼育実験用水槽を設置し、実験環境を整備した。 平成26年度は国立環境研究所で系統保存されている株や河川水から単離した株を培養して実験室レベルでの実験に加え、現地実験水槽を用いて河川水中に存在する利用餌の検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はイシガイ類の利用餌を解明することである。まず、イシガイ類生息地の餌環境を明らかにするためにクロロフィルaなどの水質分析、利用餌の証拠となる藻類などの真核微生物を対象にした河川水や底質試料の遺伝子分析(PCR-DGGE法)手技の確立、及び貝軟体部の脂肪酸分析による餌源の解析を行った。その結果、①イシガイ類の成長期となる晩春から夏季にクロロフィルaが大きく、成長に必要な藻類量が供給されている可能性、②藻類の遺伝子解析からは季節変化の特徴、及び③脂肪酸解析からはイシガイ類は藻類のほかに細菌を同化していることなど、餌源特定に基礎的ではあるが重要な情報が得られた。 それらの調査結果に基づいて、餌候補となる藻類を国立環境研究所(NIES コレクション)の保存株の中から選抜するとともに、生息河川水から藍藻、珪藻、緑藻など主要構成藻類を単離して、利用餌の検証に必要な大量培養に向けた検討を行っているところである。また、生息場所において利用餌の調査・解析を行うための現場実験水槽を設置するなど、研究遂行に必要な環境を整備した。
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今後の研究の推進方策 |
イシガイ類の利用餌の解析のために、前年度に引き続き、高密度生息地において環境調査を実施し、水質(1 回/月)及び底質(2 回/年)の化学分析を行う。また、それぞれの環境試料中及びイシガイ類の腸内容物の遺伝子や軟体部の脂肪酸を解析し、環境及び個体レベルの餌資源の季節的変動を把握する。 イシガイ類の利用餌を検証するために、現場設置実験水槽運転の運転条件及び水質変動など実験水槽の基礎データを収集する。そして、生息地から採集したイシガイ類から成熟したグロキジュウム幼生を外科的に取り出し、宿主魚に寄生させ、脱落したものを回収する方法で種苗した稚貝を実験水槽に放流・飼育し、定期的に生存数及び殻長を記録する。 遺伝子や脂肪酸解析の結果から推定された餌藻類については、国立環境研究所 微生物系統保存施設(NIES コレクション)の保存培養株を利用して、大量培養体制の確立及び培養株による給餌効果の実験室における検証実験の準備を行う。さらに、生息地河川水から単離・培養した株を用いた実験を継続して検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
見込んでいた必要物品(現場実験水槽給水ポンプ用電源の太陽光発電装置、水質センサー)など一部の物品購入を再検討し、次年度に行うことになった。また、適当な実験補助者が該当せず、雇用を行わなかったことが主な理由である。 次年度は必要物品の購入及び二枚貝生息地の水質調査や環境試料の委託分析費用の支出を予定している。また、文献調査など必要な研究補助者の雇用のための人件費及び海外で行われる学会発表等に係る旅費の支出を見込んでいる。
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