研究課題/領域番号 |
25290085
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
國府方 吾郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40300686)
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研究分担者 |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
奥山 雄大 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究員 (40522529)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 絶滅危惧植物 / 生物多様性 / 東アジア |
研究実績の概要 |
1. 東アジアの絶滅危惧植物の統合レッドリスト ロシア東部,中国,韓国,日本,台湾産について、最新分布情報をもとにデータベースを更新した。北朝鮮のレッドリスト情報を一般公開した。
2. 日本産絶滅危惧植物の実体解明に関する研究および周縁集団における種分化の進化生物学的評価 1)小笠原に分布し、帰化種とされてきたマルバケヅメグサ(スベリヒユ科)について、台湾などに分布するPortulaca psammotrophaとすることが適切であること、小笠原自生の可能性が高く、国内絶滅危惧種とすべきであることを提唱した。2)屋久島におけるヒメサギゴケ(サギゴケ科; EN)の自生を52年ぶり再確認し、本種に当てられた複数の分類見解のうち、Mazus goodenifoliusとすることが適切と結論づけた。③ヒメムカゴシダ(コバノイシカグマ科; EN)について、オオフジシダと現在は日本に分布しないムカゴシダとの間の不稔性雑種であることを示した。④八重山と台湾に分布するリュウキュウキジノオ(キジノオシダ科; EN)は2倍体であることを明らかにし、広く分布するキジノオシダ属倍数体種の祖先種の1つである可能性を示唆した。⑤リュウキュウヒモラン(ヒカゲノカズラ科; CR)はヒモランの形態変異、ヒメシシラン(イノモトソウ科; VU)の 小笠原産は独立種のムニンシシランとすることが適切と結論づけた。⑥奄美大島産アマミチャルメルソウ(ユキノシタ科; Mitella amamiana)の記載発表を行った。本種の狭分布、少個体数から、国際基準ではIB類に相当することを提唱した。⑦RAD-seq法を用いた分子系統解析によって、中国産カンアオイ(ウマノスズクサ科)ではわずかな種だけが日本、特に琉球列島の種群に近縁であること、オオバカンアオイを除く奄美諸島に自生する種は単系統群になることを明らかにし、琉球列島でカンアオイ属が適応放散を遂げていることを示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 東アジアの絶滅危惧植物の統合レッドリスト 計画通り、北朝鮮のレッドリストの一般公開を開始することができた。ハード面では限定された関係者が独自にアップデートできるように改良し、最新情報への更新を安易に行えるシステムを確立することができた。また、バイリンガルにすることにより、国外共同研究者との議論を円滑に行うことができ、その公開データベースを閲覧した国外の他研究者から共同研究の打診を受けた。 2. 日本産絶滅危惧植物の実体解明に関する研究および周縁集団における種分化の進化生物学的評価 新種記載を含む研究成果は当初の予定以上であった。これらの研究成果に加え、分布情報の蓄積、植物園などにおける生きた植物の自生地外保全コレクションの充実も促進された。誌上・口頭・ポスター発表も当初の予定以上であった。また、オキナワマツバボタン(スベリヒユ科; VU)とその変種であるアマミマツバボタン(26年度の本研究によって記載)が種群レベルで、ハママンネングサ(ベンケイソウ科; NT)が種レベルで分布北限における周縁分化を起こしている可能性を示唆することができた。これらの検証は28年度に行う予定である。さらに、ヒメサギゴケ(サギゴケ科; EN)など琉球列島付近の北限集団で形態的および遺伝的な分化を起こしている可能性のある植物種を見出し、今後の発展研究につなげることができた。 3. 国民への社会発信 本研究の成果は、国立科学博物館筑波実験植物園で6月20~28日に開催された「めずらしい植物展」および10月17~25日に開催された「生き物のきずな展」、(一財)沖縄美ら島財団熱帯・亜熱帯都市緑化植物園で8月1~31日に開催された「沖縄の貴重な植物展」(協力として)の展示として活用することができた。また、月刊誌「朝日マイガーデニング植物が生きる環境を守ろう」において、12種の絶滅危惧植物を紹介することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 東アジアの絶滅植物の統合レッドリスト構築および国際ネットワークの構築 これまで対象としてきた東アジア各国に加え、レッドリストが公表されているマレシア地域各国のレッドデータを統合レッドリストデータベースに加える。また、人的ネットワークの充実にも努める。具体的には、中国、韓国、台湾の協力研究機関とともに、共同野外調査、学術情報交換などを行い、グローバルな研究プロジェクトに発展させる。 2. 日本産絶滅危惧植物の実体解明に関する研究および周縁集団における種分化の進化生物学的評価 これまで通り、日本産絶滅危惧植物の実体解明を進め、効率よく誌上・口頭・ポスターにて学術発信を行う。また、これまでに周縁分化を起こしている可能性が示唆された植物について、近隣地域産の関連種を含めて集団解析を行い、周縁集団の進化的重要単位としての評価を行う。28年度は最終年度となるため4年間の研究総括を行う。 3. その他 得られた研究成果は学術発信するとともに、国立科学博物館筑波実験植物園で5月28日~6月5日に開催される企画展「琉球の植物」、(一財)沖縄美ら島財団熱帯・亜熱帯都市緑化植物園で8月に開催される「沖縄の貴重な植物展」(予定;協力として)などの展示資料として活用し、広く国民に社会発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA実験に必要な試薬が平成27年度末までに納品されず、平成28年度の予算で執行することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に購入を予定していたDNA実験試薬を平成28年度に購入する。
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備考 |
本研究で作成した日本産絶滅危惧植物のロシア、中国、韓国、北朝鮮、台湾での分布と絶滅危惧ランクをデータベース化し、一般公開した(日英バイリンガル)。
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