研究実績の概要 |
mRNA 3'末端ポリA鎖は、mRNAの安定性と翻訳活性化の2つの局面において遺伝子発現に大きく寄与している。研究代表者らは、mRNAポリA鎖分解の分子機構を独自に解明し、そのポリA鎖分解を標的とする全く新しい遺伝子発現制御機構を解明することを目的として研究を行なった。昨年度までに、ストレスによるグローバルな遺伝子発現制御とストレス顆粒形成への関与、および転写産物特異的な調節としてc-myc mRNAやグルタミン酸受容体GluR2 mRNAのポリA鎖分解による負の遺伝子発現の制御について解明してきた。さらに、統合失調症の原因因子であるRNA結合蛋白質QKI7が、CDKインヒビターp27kip1やスプライシング因子hnRNPA1、転写因子βカテニンなどのmRNAを標的としてポリA鎖伸長をおこない、遺伝子発現を正に制御することを証明し報告した(Yamagishi et al., NAR2016)。本年度はとくにp27kip1を例に、シグナルによるポリA鎖伸長制御について解析し、srcチロシンキナーゼのシグナルによりQKI7がリン酸化をうけることで標的RNAのポリA鎖伸長が制御されることを新たに見出した。また、ポリA鎖伸長を触媒する酵素PAPD1-7について、免疫沈降により共沈する蛋白質の質量分析を行い、ポリA鎖伸長マシナリーを形成する因子を網羅的に同定した。 一方で、脱ユビキチン化酵素Usp10がポリA鎖分解に関わることを昨年度までに報告してきたが、Usp10はポリA鎖分解マシナリーの構成因子を脱ユビキチン化することにより、ポリA鎖分解酵素を安定化し、ポリA鎖分解に必須な役割をはたしていることを新たに見出した。
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