研究課題/領域番号 |
25291005
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
饗場 弘二 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (20025662)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小分子RNA / Hfq / サイレンシング / 転写後制御 / 大腸菌 / 転写ターミネーター / ポリU配列 |
研究実績の概要 |
本研究は、大腸菌をモデル生物として用い、原核生物に存在するHfq結合型小分子RNA(sRNA)の機能構造を明らかにすることを目的にしている。sRNAは塩基対を形成することにより、標的mRNAを抑制する。Hfqは、sRNA/mRNA間の塩基対形成を促進させるが、HfqによるsRNA/mRNA間の塩基対形成の促進作用の詳細な分子メカニズムは未だ不明である。これまでに、申請者らはsRNAの1つであるSgrSやRyBなどをモデルsRNAとして用いて、sRNAの機能的Hfq結合領域がsRNAの3’末端領域に存在することを明らかにした。平成27年度には、sRNAの機能的Hfq結合領域がsRNA遺伝子の転写終結領域と重複することに着目し研究を進めた。その結果、ストレスがない条件下ではsRNA遺伝子の転写終結領域におけるリードスルーが高頻度で起こることを見いだした。プルダウン法によりリードスルー産物はHfqとの結合能を失っていること、すなわちsRNAとして機能しない可能性を示した。また、合成RNAとbiotin/streptavidin系を用いたin vitro結合実験により、ポリUストレッチはsRNAの3’末端に位置した場合にのみHfq結合能を持つことを直接証明した。これらの観察から、ポリUストレッチはsRNAの3’末端に位置することで機能的なHfq結合モチーフとして働きうると結論した。多くのsRNA遺伝子の転写は、種々のストレスにより特異的に行われる。今回、sRNA遺伝子の転写終結が種々のストレスにより促進され、結果的に3’末端にポリUテールを有する機能的なsRNAの産生を保証する仕組みであることを発見した。これは、sRNA産生の新たな制御様式の可能性を示したものである。以上の成果を、RNA研究の国際学術誌であるRNAに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、本研究課題である、sRNAの機能構造の全容の解明に対して、以下の進展があったことがあげられる。1)ストレスがない条件下ではsRNA遺伝子の転写終結領域におけるリードスルーが高頻度で起こることを発見した。2)sRNAの機能的Hfq結合領域が3’末端に位置することの重要性を、in vivo およびin vitroで示した。3)sRNA遺伝子の転写終結が種々のストレスにより促進され、結果的に3’末端にポリUテールを有する機能的なsRNAの産生を保証する仕組みであることを発見した。第2に、以上の研究成果を種々の学会で発表し、さらには学術論文としてまとめ、国際学術誌であるRNAに発表したことをあげることができる。第3に、未発表ながら、以下の研究成果を得ていることも研究がおおむね順調に進行している理由の1つと考えている。1)sRNA遺伝子のRho非依存型ターミネーターのヘアピン構造を安定化させた場合、3’末端のポリUが短くなり、sRNAとしての機能を失う可能性が考えられる。このことを実験的に検証し、ゲノム上のsRNA遺伝子が機能的なsRNAを産生するためにうまくデザインされていることを明らかにした。2)SgrSの塩基対形成領域を必須遺伝子であるftsZ mRNAを標的にするように組み換えたSgrS組換え体がftsZ mRNAを特異的に抑制することを確認し、このシステムを利用して、Hfq結合領域の変異体を多数取得し、現在解析中である。3)同じ系を用いて、sRNAの作用発現に必須のHfq以外の因子のスクリーニングを行い、候補遺伝子の取得に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題にあげた、機能的Hfq結合領域の重要性を塩基レベルで理解する、及び、sRNAの塩基対形成領域、及び機能的Hfq結合領域間の連動性について、研究計画に沿って進行させる。また、研究の中から見いだされた、ストレスによるsRNA遺伝子の転写終結制御については、分子メカニズムの解明にチャレンジする。ストレスによるUTPの枯渇等、具体的な作業仮説を構築し、検証を行う。さらに、転写終結領域を担うRho非依存型ターミネーターのヘアピン構造の安定性と3’末端のポリUの形成の関係性を検証する。一般的に、ヘアピン構造の安定性が高い場合、3’末端のポリUが短いと考えられている。これらのことを踏まえれば、sRNA遺伝子のRho非依存型ターミネーターのヘアピン構造を安定化させた場合、3’末端のポリUが短くなり、sRNAとしての機能を失う可能性が考えられる。この仮説はすでに部分的に証明しつつあるが、この解析は、sRNAの機能構造にさらなる理解をもたらすことに加え、転写終結メカニズムを再考する上でも有意義であると考えられるので、重点的に研究を進める。また、新たな取り組みとしてsRNAの作用発現に必須のHfq以外の因子のスクリーニングを行い、候補遺伝子の取得に成功しているので、この新たな研究も進める。得られた成果については、積極的に学術論文、及び学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績の概要、及び達成度の通り、平成27年度において本計画研究はおおむね順調に進んだと考えられる。平成28年度での研究計画を、より円滑に効果的に行うために当該助成金を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
当該助成金、及び翌年度分として請求した助成金は、最終年度の研究の推進方策にあげた計画には必要なもであり、特に当該年度助成金については物品消耗品として使用を計画している。
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