我々は大腸菌におけるタンパク質膜挿入の再構成系を構築し、膜挿入反応に必須の因子MPIaseを同定した。MPIaseはその酵素的な作用にもかかわらず糖脂質であったことから、「糖脂質酵素(Glycolipozyme)」という概念を提唱している。MPIaseの生合成遺伝子を検索し、cdsA遺伝子を同定している。cdsA遺伝子を欠失させるとMPIaseの発現量が激減し、膜タンパク質の前駆体が蓄積することを見出した。すなわち、in vitro実験系で同定したMPIaseはin vivoでも同様の機能をもつことを明らかにした。しかし、CdsAは全てのリン脂質生合成前駆体であるCDP-DAG生合成酵素として知られている。Tam41は酵母ミトコンドリアのタンパク質であり、CDP-DAG生合成活性をもつがMPIase生合成活性はなかったため、MPIaseは菌の生育に必須であることが明らかとなった。 当初、MPIase生合成はUDP-GlcNAcからGlcNAcリン酸部分がフォスファチジン酸に転移する反応であると予測したが、糖供与体としてCDP-GlcNAcが利用されていることが判明した。 再構成系においては、MPIaseがYidCと機能的相互作用するという結果が得られた。F0F1-ATPaseのcサブユニット(F0-c)は、YidCに依存して膜挿入すると報告されている一方、自発的膜挿入が抑制されているリポソームにも膜挿入するという報告もある。F0-cは酸性リン脂質と相互作用するとプロテアーゼ耐性の構造を獲得し、この性質が膜挿入活性の評価を複雑で困難にしていることを明らかにした。この構造は界面活性剤存在下でも安定であることを突き止め、膜挿入活性と構造変化の区別を付けられるように工夫した。その結果、F0-cの膜挿入反応はMPIaseに依存し、YidCにより促進されることが明らかとなった。
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