研究課題/領域番号 |
25291017
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
橋本 博 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40336590)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、DNA損傷を修復せずにDNA複製を続ける「損傷トレランス」の分子メカニズムを、タンパク質のX線結晶構造解析によって構造生物学的に明らかにすることを目的とする。さらに、損傷トレランスを標的とした全く新しい抗がん剤開発の構造基盤を得ることを目指す。損傷トレランスは、複製中に生じたDNA損傷をやり過ごす重要な細胞機能である。しかし一方で損傷トレランスは、がん細胞がシスプラチンなどのDNA損傷を起こす抗がん剤に抵抗性を持つ原因である。従って、損傷トレランスの分子メカニズムを原子レベルで理解することで、損傷トレランスにおける分子間相互作用を標的とした新規抗がん剤のリード/シード化合物の創出が期待できる。 H26年度は、損傷乗り越えDNA合成に関してはポリメラーゼスイッチングの分子機構を明らかにするために, Polκ-REV1-REV3-REV7四複合体のX線結晶構造解析を行った。その結果、REV7が損傷乗り越えDNA合成において、3つの誤りがちなDNAポリメラーゼ(REV1、REV3、Polκ)を物理的に繋ぐアダプタータンパク質として機能する構造基盤を得た。一方、テンプレートスイッチに関しては、2つのDNAヘリカーゼであるHLTFおよびZRANB3の構造生物学的研究を進めた。HLTFに関しては、新規DNA結合ドメインであるN末端ドメインに関して、DNA複合体でのX線結晶構造解析に成功し、構造に基づく相互作用解析によってDNA認識機構を明らかにした。また、ZRANB3に関しては、様々な発現系を検討するとともに、PCNAとの相互作用解析および結晶化条件の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
損傷乗り越えDNA合成に関して、Polκ-REV1-REV3-REV7四者複合体のX線結晶構造解析を行った。PolκはREV1との相互作用に関わるペプチドを用いた。構造解析の結果、PolκのフェニルアラニンがREV1の疎水性のくぼみと相互作用することが明らかとなった。この結果から、REV7がTLSのポリメラーゼスイッチにおけるアダプタータンパク質として機能することがわかった。すなわちREV7は、インサーターであるREV1およびREV1を介してPolκなどの他のインサーターをリクルートし、さらにエクステンダーであるREV3の機能を物理的に繋ぐ役割を担っている。この四者複合体の相互作用を阻害する化合物やペプチドのデザインが可能になった。 また、テンプレートスイッチに関してはHLTF-DNA複合体のX線結晶構造解析に成功した。その結果、HLTFがどのようにしてDNAの3'末端を認識しているかを原子レベルで明らかにすることができた。さらに、ZRANB3に関しては、PCNAとの相互作用解析と結晶化条件の検討によって、構造解析に適した結晶を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
損傷乗り越えDNA合成に関して、損傷乗り越えDNA合成の足場となるモノユビキチン化PCNAの調製と損傷乗り越え型DNAポリメラーゼとの複合体のX線結晶構造解析を行い、モノユビキチン化PCNAを足場としたポリメラーゼスイッチングの解明を目指す。 1)ユビキチン化PCNAとインサーター複合体:2010年、酵母PCNAに関してタンパク質工学的に疑似モノユビキチン化PCNAの調製方法が報告された。本研究では、それをヒトPCNAに応用し、モノユビキチン化PCNAを調製する。ヒトにおいて損傷乗り越え型DNAポリメラーゼは4種類存在するが、本研究では下記の理由により、Polιを対象とする。すなわち、PolιはPCNA相互作用領域の近傍にユビキチン結合ドメインを有し、ユビキチン化PCNAと共結晶化を行うのに適したドメイン配置であると予想される。すでに、ヒトPolι(440-740)に関して、大腸菌を用いた大量発現系の構築に成功している。したがって、疑似モノユビキチン化PCNAとPolι複合体のX線結晶構造解析、構造解析に基づく相互作用解析によって、モノユビキチン化PCNAを足場としたポリメラーゼスイッチングのメカニズムを明らかにする。 2)HLTF:申請者は、HLTFのN末端ドメインがヘリカーゼドメインと連動してDNAを巻き戻すと考えている。それを検証するため、様々な構造のDNAとの複合体での構造解析を行い、N末端ドメインの構造と機能を明らかにする。また、ヘリカーゼドメインの調製も進め全長に近い状態のX線結晶構造解析を目指す。 3)ZRANB3:ZRANB3はマルチドメインタンパク質であり、ユビキチンと相互作用するドメイン、DNAと相互作用するドメインを持つ。したがって、ZRANB3の様々な発現系を用いた試料調製を検討し、ZRANB3とPCNA、ユビキチン、DNAとの複合体でのX線結晶構造解析を行うことで、テンプレートスイッチのメカニズムを明らかにする。
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