研究課題
基盤研究(B)
大腸菌の“折合い遺伝子”候補の探索1. 二成分制御系EnvZ-OmpRによる大腸菌病原性の減少:細菌の病原性への二成分制御系の関わりを調べた。そのために、ショウジョウバエに感染した大腸菌における27個のセンサーキナーゼと32個のリスポンスレギュレターの遺伝子プロモーターの強さを調べ、10種類ほどの二成分制御系がショウジョウバエに感染した大腸菌において高発現することが示唆された。そのうち、センサーキナーゼEnvZとリスポンスレギュレターOmpRとから成る二成分制御系EnvZ-OmpRの役割を調べた。その結果、これらを欠損した大腸菌の感染ではショウジョウバエが早く死ぬことがわかり、遺伝子補完した変異菌はそのような性質を示さなかった。よって、この二成分制御系が大腸菌の病原性を低下させることがわかった。2. σ38による大腸菌病原性の増大:細菌の病原性へのσ因子の関わりを調べた。まず、ストレス応答に関わるσ因子であるσ38の発現が、ショウジョウバエに感染させた大腸菌で高まることがわかった。そして、σ38欠損で大腸菌の病原性が低下し、遺伝子補完によって確認された。よって、σ38は大腸菌の病原性を増加させることがわかった。さらに、このσ38の働きに大腸菌のカタラーゼが関わることが示された。3. PGRP-LCによる大腸菌遺伝子発現の変動:宿主免疫タンパク質による大腸菌遺伝子の発現変動の可能性を追求した。そのために、大腸菌を宿主の免疫タンパク質にさらした時のmRNA量変化をマイクロアレイ反応で調べた。その結果、mRNAが増加する遺伝子が約180、低下する遺伝子が約200見つかった。増加程度の大きい遺伝子約10種類についてショウジョウバエへの感染時の変化を調べると、nlpI遺伝子のmRNAが感染直後に増加することがわかった。さらに、in vitroの実験により、宿主による大腸菌認識に働くPGRP-LCとよばれる免疫タンパク質がnlpI遺伝子発現の増加を引き起こすことが示された。
2: おおむね順調に進展している
達成度をおおむね順調とする理由は、“宿主との折り合いをつける細菌遺伝子”の候補が見いだされたからである。折り合い遺伝子の候補を見いだすために、二種類のスクリーニングを実施した。「プロモーター強度スクリーニング」では複数の二成分制御系をコードする遺伝子が、そしてもう一つの「遺伝子発現誘導スクリーニング」でも複数の遺伝子が、それぞれ候補として見いだされた。また、これらのスクリーニングとは異なるやり方においても候補遺伝子が見つかっている。これらをさらに絞り込み、有力候補遺伝子の機能を解析することが、次年度の目標となる。
大腸菌の“折り合い遺伝子”候補の働きの解明1. EnvZ-OmpRの働き方の解明:EnvZ-OmpRを欠損した大腸菌では病原性が増大する。一般に二成分制御系は発現する細菌遺伝子の種類を変える。EnvZ-OmpRによって発現変動する遺伝子はわかっているので、その中に大腸菌の病原性抑制を規定するものを見いだす。2. σ38の働き方の解明:σ38を欠損した大腸菌では病原性が低下する。二成分制御系と同じく、σ因子も特定の細菌遺伝子の発現を誘導する。σ38の働きで発現誘導される遺伝子はわかっているので、その中に病原性増大を規定するものを見いだす。3. NlpIの働き方と発現誘導の仕組みの解明:ショウジョウバエ免疫タンパク質PGRP-LCのNlpI遺伝子の発現誘導への関与を検証する。そのために、PGRP-LCを持たないショウジョウバエに感染させた大腸菌についてNlpIのmRNA量を調べる。一方、NlpIを欠損する大腸菌の病原性程度を調べ、このタンパク質が大腸菌の病原性の調節に関与するかどうかを知る。4. Hfqの働き方の解明:RNAシャペロンとして働くHfqを欠損させると大腸菌の病原性が低下する。Hfqによって発現変動する遺伝子はわかっているので、その中に大腸菌の病原性調節に関わるものを見いだす。
研究の進展状況の都合により、実験動物(キイロショウジョウバエ)のいくつかの種類について使用する必要がなくなった。そのため、それらの飼育に要する物品を購入しなかった。上記の動物について、予定を繰り下げて次年度に利用することを計画している。次年度に繰り越された経費をそれらの飼育に要する物品の購入に充てる。
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J. Immunol.
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doi: 10.4049/jimmunol.1300968
Biochem. Biophys. Res. Commun.
巻: 438 ページ: 306-311
10.1016/j.bbrc.2013.07.062